元令嬢は俺様御曹司に牙を剥く 〜最悪な運命の相手に執着されていたようです〜
「俺と、もう一度婚約しない? 飛鳥社長なんかより、俺の方がいいよ。剣崎酒造をグループ化する話が上がってて、だからゆくゆくはワイン輸入会社の社長になるし。同じ社長の肩書で、俺の方が色春のこと愛せるって、自信あるし」

 不安に震える手で、拳を握り締めた。不意に、飛鳥が選んでくれた婚約指輪が目に入る。美しい、さくらのような輝き。それを、私にぴったりだと選んでくれた飛鳥の言葉を、嘘だなんて思いたくない。


「ごめんなさい。それでもやっぱり、私は飛鳥が好きだから」
「は? 色春を騙そうとしていたヤツだぞ?」
「うん、それでも。十年前に優しくしてくれた事実は、きっと嘘じゃないから。私は、あの時からずっと、飛鳥のことが好きだった」

 あの時、私の心を救ってくれた。たった一人、飛鳥の前なら泣けた。知らんぷりしながら、話を聴いてくれていた。そんな飛鳥だから、最悪で最低な人だけれど、どうしようもなく好きになったんだ。だから――

「私は飛鳥を信じるよ。私を好きだって言ってくれた飛鳥を、信じる」

 言いながら、顔を上げた。しっかりと、冬梧さんを見た。

「好きな人なのに信じられないなんて、そんなの悲しすぎるもん。私は飛鳥が好きなの! だから冬梧さん、ごめんなさい」
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