元令嬢は俺様御曹司に牙を剥く 〜最悪な運命の相手に執着されていたようです〜

全て彼の手の内で

 言い切ったところで、個室の扉がガラリと開いた。

「特許権が欲しいのは、そちらではないですか? 剣崎酒造株式会社の剣崎冬梧ワイン輸入部門長」

 開いた戸の向こうでそう言った飛鳥は私の隣にやってきた。ぴったりと、(もも)がくっつくくらいに隣に寄り添って座る。

「小耳にはさみましたよ。剣崎酒造さんが、製薬部門を立ち上げようとしていること」
「え?」

 冬梧さんがぎょっとする。隣を見上げれば、飛鳥は不敵な笑みを浮かべていた。

「剣崎酒造さんと久恩山グループ(うち)が手を組めば、製薬業界のトップになれること間違いなしだと思いましてね? それで、剣崎酒造の社長を口説きまして、玖珂製薬の優秀な社員を何名か、そちらに派遣することになりました。業務提携ですよ」

 飛鳥はニヤリと上げた口角を深くし、白い歯を見せる。

「それとこれとは関係ないじゃないか!」
「関係なくありませんよ。あなたが欲しいのは色春じゃなくて、色春の持つ特許権とそれを手柄とした製薬部門のトップの座でしょうから。そんなヤツに、色春を渡してたまるか」

 言いながら、飛鳥は私の腰をぐっと抱き寄せる。

「私たちは相思相愛なので。色春は誰にも渡しませんよ」

 かぁぁと頬が熱くなる。けれど、先程大声で『飛鳥が好き』と言ってしまったのも事実だ。

 冬梧さんはこちらを睨むようにして立ち上がる。そんな冬梧さんに向かって、飛鳥は口を開く。

「今後とも仲良くよろしくお願いしますよ。剣崎冬梧ワイン輸入部門長」

 個室の扉に手をかけた冬梧さんが、こちらを振り向く。その顔には、引きつった笑みが浮かんでいた。

「こちらこそですよ、飛鳥社長」
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