らくがきと恋心
「あーあ。やっと終わったね選択」
最後の選択授業を終え、教室へ戻りながらそう言った環ちゃん。
季節はすっかり秋。冬の手前だ。
「うん、終わっちゃった」
私は胸に抱えたノートをギュッと握りしめた。
「“終わっちゃった”って、それ選択授業じゃなくて画伯さんとの落書きのこと言ってるじゃん」
環ちゃんが笑いながら言った。
「バ、バレた?」
私がヘヘッと頭をかきながら言うと環ちゃんは呆れたようにまた笑う。
「最後なんだし自己紹介でもして終わればよかったのに」
「しないよ。お礼は書いたけどね」
「そっかぁ」
やり取りが終わるのはやっぱり少しさみしいな。
どんな人だったのか、気になるけど、もう知る術はない。
顔も名前も知らなくて、短いメッセージと絵の交換をしただけなんだけど、
机に残されたメッセージを見るたびにドキドキした。
これは紛れもなく、恋心。
画伯さんという存在に、恋してた。
ちょうど廊下の角を曲がったその時、誰かとぶつかって持っていた教科書やらノートやらが床に散らばった。
「わっ、ごめんなさい」
「大丈夫?こっちこそゴメンネ」
ぶつかった相手は赤い髪をした男子生徒で、ビビった私は慌てて散らばった荷物を拾った。
友達なのか、周りにいた人が筆箱を拾ってくれる。
「す…すみません」
筆箱を受け取り、頭を下げる。
最後に、開いたまま床に落ちたノートを拾ってくれた人。
それは、グレー髪のハッシュの人だった。