おさがり姫の再婚 虐げられ令嬢が最後に手に入れたのは姉の婚約者だった次期公爵様でした

28話 宮殿からのお迎え

 図書館を出たエリックは歩きながら、さっき会った風変わりなファンのことを考えていた。

(面白い少女だったな)

 幼さの残る顔にピンクブラウンの髪がよく似合っていて、咲いたひなぎくのように可憐な彼女は、自分のファンだと名乗った。

 いつもエリックの本を愛読してくれているのだろう。
 感想はよどみなく、作品名もすらすら話していた。あれでお世辞だったら、国立劇場で演じるような名女優になれる。

 新刊を渡した時の弾ける表情を思い出すと、自然と頬がほころぶ。
 いつぶりだろうか。こんなに心穏やかな気持ちになったのは。

(宮殿にいるときは心がすり減るばかりだったからな)

 青い空を見上げてふっと息を吐き出す。
 たまっていた鬱憤が澄んだ空気の中に溶けていくようだった。

「――こんなところにいたんですか」

 正面に、騎士団の制服を着た男が立ちふさがった。
 黒い長髪を風にさらし、騎士らしい精悍な顔をひそめて口をへの字に曲げる。

「探しましたよ。また国王が馬鹿をやっておられるようです。宮殿に戻ってください、《《ラウル様》》」

 呼ばれた瞬間、エリックの目が鋭くなった。

「……今、帰ろうとしていたところだ」

 怒気を含ませた声で応え、下ろしていた前髪を手でかき上げて、冷酷そうな仮面を被る。
 彼は巷で人気の恋愛小説家エリック・ダーエ。
 しかしてその正体は、国王の補佐として名を馳せるラウル・ルフェーブルその人だった。
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