おさがり姫の再婚 虐げられ令嬢は姉の婚約者だった次期公爵様に溺愛される
王妃シュゼットとは名乗れない。
嘘つきだと思われるだろうし、王妃本人だと暴かれたらなぜ宮殿の外にいるのか問題になる。
(なにか別の名前を)
とっさにメグや侍女たちを思い浮かべたが、勝手に使うのは気が引ける。
なので、目の前にいるエリックの本から拝借することにした。
「私は〝シシィ〟と言います」
シシィは『拾われ妃の宮廷日記』の主人公エリザベートの愛称だ。
自分の小説の名前を使われていると思わないエリックは、少しも疑うことなくシュゼットが持つ本の裏表紙を開いた。
「ここに出版社の住所がある。俺への手紙や小包はここに送ってもらいたい。すぐに返事を書いて送る」
「お手紙を出してもいいのですか?」
きょとんとするシュゼットに、エリックは小さく笑う。
「君だけだ。ファンレターは担当者が読んで返事を書いているが、君からの手紙だったら俺が自分で読む。先ほどの様子だと、まだまだ感想を言い足りないだろう?」
「はい!」
憧れの作家とのつながりにシュゼットは舞い上がった。
本人から新刊を手渡されて、感想を読む約束をしてもらえて、次回作のお手伝いができるなんて、こんな幸せなことがあるだろうか。
「できるだけ早く探します。私の住所は――この図書館でもいいでしょうか?」
「何か理由が?」
「私は結婚していて、男性からの手紙をもらうと夫が怒るので……」
そういうことならと、エリックはこの図書館を窓口にすると同意してくれた。
ガストン先生にお願いして宮殿に転送してもらえば、正体を明かさずに手紙のやり取りができる。
「では、また」
立ち上がったエリックは、春風に吹かれながら歩いていく。
広い背中を見送りながら、シュゼットは秘密の約束に胸がときめくのを抑えられなかった。
嘘つきだと思われるだろうし、王妃本人だと暴かれたらなぜ宮殿の外にいるのか問題になる。
(なにか別の名前を)
とっさにメグや侍女たちを思い浮かべたが、勝手に使うのは気が引ける。
なので、目の前にいるエリックの本から拝借することにした。
「私は〝シシィ〟と言います」
シシィは『拾われ妃の宮廷日記』の主人公エリザベートの愛称だ。
自分の小説の名前を使われていると思わないエリックは、少しも疑うことなくシュゼットが持つ本の裏表紙を開いた。
「ここに出版社の住所がある。俺への手紙や小包はここに送ってもらいたい。すぐに返事を書いて送る」
「お手紙を出してもいいのですか?」
きょとんとするシュゼットに、エリックは小さく笑う。
「君だけだ。ファンレターは担当者が読んで返事を書いているが、君からの手紙だったら俺が自分で読む。先ほどの様子だと、まだまだ感想を言い足りないだろう?」
「はい!」
憧れの作家とのつながりにシュゼットは舞い上がった。
本人から新刊を手渡されて、感想を読む約束をしてもらえて、次回作のお手伝いができるなんて、こんな幸せなことがあるだろうか。
「できるだけ早く探します。私の住所は――この図書館でもいいでしょうか?」
「何か理由が?」
「私は結婚していて、男性からの手紙をもらうと夫が怒るので……」
そういうことならと、エリックはこの図書館を窓口にすると同意してくれた。
ガストン先生にお願いして宮殿に転送してもらえば、正体を明かさずに手紙のやり取りができる。
「では、また」
立ち上がったエリックは、春風に吹かれながら歩いていく。
広い背中を見送りながら、シュゼットは秘密の約束に胸がときめくのを抑えられなかった。