おさがり姫の再婚 虐げられ令嬢は姉の婚約者だった次期公爵様に溺愛される
 悪いことをしているみたいに非難されて、シュゼットは衝撃を受けた。

 お人形の可愛らしい声は自分にしか聞こえないらしい。
 こんなにたくさん話してくれる相手は、人間だってそういないのに。

 どうしてかしらと頬に手を当てて考える。
 黙ってしまったシュゼットを心配して、カルロッタは、お茶会はまた今度にしようと言い出した。

「きっと熱があるのよ。それか、おままごとのしすぎね。頭で無意識に相手の言葉を作り出しているの。あたしにもそんな時期があったわ」

 大人ぶって同情するカルロッタに、シュゼットはぶんぶんと首を振った。

「おままごとなんかじゃないわ」

 だって、物たちは迷子になったシュゼットに道案内をしてくれたり、探し人の居場所を教えてくれたりするのだ。
 もしも、その声をシュゼットが自分の頭で考え出しているとしたら、シュゼットが知らないことを知っているのはおかしいではないか。

(そうだわ)

 シュゼットはひらめいた。
 カルロッタが知らない出来事を物に教えてもらって披露すれば、彼女も本当に彼らが話せるって信じてくれるはずだ。

「お姉さま、私のお話が嘘じゃないって証明するわ。お姉さまが使っているカップさん、何か教えてくれない?」

 冷めたミルクティが半分くらいまで入ったカップは、最近になって両親がシュゼットとカルロッタのために新調してくれた食器の一つだ。
 こういった薄くて軽い磁器は、貴族の間で流行っていた。

 乳白色の上に薔薇が描かれていて、子どもの手でもしっかりつかめる小さめのハンドルがついている。
 開きかけのつぼみの絵の辺りから、寝ぼけたような声が聞こえた。

『う~ん? 昨日の真夜中、あんたの姉さんがホットミルクを飲んだ話でもいいかい。おれの真横に飾られていたコスモス絵のカップが、自分が選ばれてミルクをお嬢様の寝室に運んでいったって自慢してたよ~?』

 昨晩、シュゼットは早くに寝付いて朝まで一度も起きなかったので、カルロッタがホットミルクを飲んだのは初耳だった。
 ふむふむと話を聞いたシュゼットは、聞いたことをそのままカルロッタに伝えた。

「薔薇のカップさんが教えてくれたわ。お姉さまは昨晩、とっても寝つきが悪かったのね。眠くなるようにホットミルクを頼んだんでしょう。そのカップには、コスモスの絵が描かれていなかった?」
「なんで知ってるの!?」

 カルロッタはカタカタと震えだした。
 フォークをお皿に落とし、血の気が引いた顔に両手を当てて叫ぶ。

「シュゼット、あんたはおかしいわ! お父様とお母様に知らせなきゃ!!」

 椅子を飛び降りて走り去っていくカルロッタを、シュゼットはきょとんと首を傾げて見送った。

「お姉さま、一人でホットミルクを飲んだことを知られたくなかったのかな?」
『大変なことになりそうね』

 のん気に話すお人形の口は、やっぱり少しも動いていなかった。
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