16歳年下の恋人は、そう甘くはなかった

決着

次の瞬間、抱きしめられたまま強い力で押され、上村と一緒に扉の内側に収まってしまった。
マヤの手から解放された鉄扉がガシャンと無慈悲な音を立てて閉まる。

「ちょっと!やめて!」

上村の体重をこれ以上支えきれなくなり、後ろにたたらを踏んで廊下の上に尻もちをついた。
その振動が下腹部に伝わり、痛みが走った。

「マヤ、マヤ・・・」

呻くように自分の名前を呼ばれ、恐怖で身体が板のように硬直した。全身から冷たい汗が滲み出る。

「離して!助けて!」

自分に覆いかぶさる男の体を押し返しながら、声を振り絞って叫ぶ。
ふいに左頬に鈍い痛みが走り、それはすぐに燃えるように熱くなった。
体を起こした上村は、マヤの腿の上に跨ったまま、不気味な笑顔でマヤを見下ろしている。
口の中に血の味が広がり、ようやく殴られたとわかり呆然となった。

「ベッド行こ」

上村の不気味な囁きに、背中に氷が触れたように体がビクッと跳ねた。

「それとも、ここでする?」

口は笑っているが、目は据わっている。

「お願い…だから、…やめて」

マヤの目からボロボロと涙が零れ落ちた。
お腹の子に何かあったら、今度こそトオルに軽蔑されるにちがいない。
男を自宅に呼んだなんて、目も当てられない。

マヤの頬に次々とつたう涙を、上村が荒々しく厚ぼったい手のひらで拭う。

「泣かないで。地味で冴えない女だった仲宗根さんに、今、こんなに欲情させられることになるとは思ってもみなかったよ」

カサついた声で、冷淡に言う彼の両手がマヤの頬を掴み、その青ざめた不気味な顔が近付いてきた。
必死に抵抗するが、全く身動きが取れない。

「いや!」

(助けて、誰か!)

恐怖と絶望で意識が遠のきそうになった、その時だった。
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