【漫画シナリオ】小崎くんは川村さんを好きすぎている

14 小崎くんへの警告


⚪︎場所:学校・廊下(午前中・小崎視点)
※前回から数日後。体育祭の準備期間。

校内で準備に追われる学生たちの描写。
→横断幕の準備だったり、応援団の演舞練習だったり。
→だいたいみんなジャージか体育着。

ポンポンの入った袋を持って廊下を歩いていた小崎は、樹に愚痴をこぼす。

小崎「最近、全然川村さんに会えてねえ〜……」
樹「お、何だ何だ、ついに愛想尽かされたぁ?」
小崎「ちげーよ。体育祭のせいで俺の予定が詰まりまくってて、登下校も昼メシも一緒にいられねーの」

はあ〜、と深いため息。
小崎は応援団員に選ばれてしまったため、朝と放課後は毎日練習。
昼休みもミーティング。
→そのせいで結莉乃にほとんど会えていない。

小崎「団が違うってだけで全然会えねーのつらすぎ、休みの日にまで練習とかふざけんなっつの……。ただでさえ校舎違うからあんま会えないのに」
樹「二組と七組じゃ、合同で授業やることもないしな〜」
小崎「ほんとそれ。もう一週間ぐらい会ってない。向こうも忙しいのか、連絡しても全然返ってこないし」
樹「まあまあ、月末までの辛抱だろ? 我慢しろよ」
小崎「え〜、いや無理、そろそろ川村さんに触らないと飢餓で死んじゃう……」

露骨に肩を落とす小崎。
ちょうどその時、廊下の奥から歩いてくる結莉乃の姿が。
→ぱあっと表情が明るくなり、小崎は樹に荷物を押し付けて結莉乃の元へ駆ける。

小崎「んああああ!! 川村さぁぁぁん!!」
樹「うお!? おい翠、俺に全部押し付けんな!!」
小崎「ごめんイッちゃん、あとでパン奢るからよろしく!」

樹の怒号も無視し、勢いよく結莉乃に抱きつく小崎。
不意をつかれた結莉乃は驚く。

結莉乃「きゃあっ!?」
小崎「はあぁぁ〜〜っ、川村さん! 川村さんだ! 生の川村さん! あ〜〜〜っ潤うぅ!! 俺の渇いた心が潤っていく〜〜!!」
結莉乃「こ、小崎くんっ! ばか、やめてよ、声でかっ……!」
小崎「やだよ、もう俺マジで川村エネルギー枯渇間近だったんだから! はあ〜、会えて嬉しい……癒しだわ〜……」

結莉乃を抱きしめて頬擦りすれば、腕の中の結莉乃が徐々に赤く染まっていく。

結莉乃(こ、小崎くんの匂いだ……なんか懐かしい)

実は結莉乃も寂しく思っていたが、先日の双葉との一件があるため少し気まずく、目を逸らしてしまう。

結莉乃「……大袈裟だよ、ばか……」

俯く結莉乃。
キョトンとする小崎。
→真剣に結莉乃を見つめる。

小崎「どした? 元気ない?」
結莉乃「え? う、ううん、別に……」
小崎「えー、でもさ……」
双葉「──翠!」

直後、双葉の声が二人の会話を遮る。
結莉乃はビクッと震え上がって青ざめた。
→ズンズン近づいてくる双葉。

翠「あ、双葉」
双葉「ちょっと、応援団のミーティング始まってるよ! さっさと来て!」
翠「はあ〜? またぁ? 何回ミーティングすんだよ、昼休みでいいじゃん」
双葉「うっさい、いいから早く来い!」

小崎は双葉に手を取られ、結莉乃から引き剥がされる。
結莉乃から離されていく小崎。
→小崎と双葉が同じ応援団員だと理解し、結莉乃は胸がざわつく。

結莉乃(有沢さんも応援団なんだ)
(小崎くんと、一緒……)

双葉は小崎の手を握っている。
それが強烈に嫌だと感じ、結莉乃は咄嗟に小崎を追いかけ、(双葉とは反対側の)彼の手を捕まえて引き止める。

小崎「え?」
双葉「!」
小崎「川村さん? どうした?」

不思議そうな小崎。
つい引き止めてしまったが、何も考えていなかった結莉乃。
双葉は結莉乃を睨んでいる。

結莉乃「……あ……いや、あ、あの……」
小崎「ん?」
結莉乃「……えっと……」

結莉乃(やばい、何も考えてなかった)
(有沢さん睨んでる、どうしよう、なんか言わないと)

握っている手に汗が滲む。
『行かないで』という言葉が頭をよぎったが、結莉乃は唇を噛み、視線を落とした。

結莉乃「……練習、頑張ってね」

結莉乃は本心を隠してへらりと笑い、小崎の手を離す。
小崎は黙って結莉乃を見つめる。
→二人の背後では、双葉がフンッと鼻を鳴らす。

双葉「要件は済んだ? 悪いけどこっちは忙しいから、邪魔しないでよね。ほら、さっさと行くよ、翠」
小崎「……」
双葉「翠? ちょっと──」

言いさした双葉だが、小崎はその手を振り払い、結莉乃の両肩を掴む。
→そのまま結莉乃に額をこつんと合わせた小崎。
→近すぎるその距離感に、結莉乃と双葉が驚愕。

結莉乃「ひ!?」
双葉「はっ!? な、何やってんの翠!?」
小崎「んー」

小崎は呟き、やがてにこりと笑う。

小崎「熱がある」
結莉乃「へ?」
小崎「川村さん、おでこアッツアツだね。顔も真っ赤っかだし、保健室に連れていく必要あるなあ、うん」
結莉乃「え? い、いや、そんなわけ」

そんなわけない、と言いきることもできず、突然小崎にお姫様抱っこされた結莉乃。
→結莉乃と双葉びっくり。
→その辺にいた生徒たちもどよめく。

結莉乃「!?!?」
小崎「ごっめーん、双葉! 俺、川村さんのこと保健室に連れていかなきゃ! ってわけで、やむを得ずミーティングに遅れま〜す」
双葉「はあ!? ちょ、ちょっと、翠!」

へらへら笑い、結莉乃を抱いたまま走っていく小崎。
怒って叫ぶ双葉を振り切って、二人はその場から消えた。


⚪︎場所:非常階段

結莉乃「……保健室じゃないじゃん」
小崎「そりゃそうだよ、熱なんかないもん」
結莉乃「嘘つき」
小崎「だってこうでもしなきゃ、双葉から逃げらんないし」

二人が逃げ込んだのは誰もいない非常階段。
周囲からは応援団の掛け声や吹奏楽の練習の音が聞こえる。
→ようやく二人きりになれたことが嬉しくもあるが、双葉への後ろめたさもある結莉乃。

結莉乃「……有沢さん、きっと困ってるよ。戻った方がいいんじゃない?」

モヤモヤしつつも冷静に諭す。
小崎は不敵に微笑む。

小崎「戻っていいの?」
結莉乃「……何でそんなこと聞くの」
小崎「だってさっき、俺が双葉に連れていかれそうな時、あんまり行ってほしくなさそうな顔してた」

全部お見通しの小崎。
→だから嘘ついて二人きりになった。

結莉乃は黙り込んでしまい、階段で膝を抱える。

結莉乃「小崎くんって、変なところで鋭いよね……」
小崎「お、当たった? 俺が双葉に連れていかれちゃうの嫌だったんだ」
結莉乃「……うん……」

膝に顔を埋めながら小さく肯定する結莉乃。
→素直すぎて逆に小崎が面食らうことに。

小崎は目を泳がせ、ほんのりと頬を赤くしながらぎこちなく微笑む。

小崎「……へ? ど、どうした? なんか、今日めっちゃ素直なんですけど……変なもん食べた?」
結莉乃「うるさいばか……私だって分かんない……もうやだ……」
小崎「え、何、待って。今の川村さん可愛すぎて永遠に求婚できそうなんだけど俺。していい?」
結莉乃「絶対やだ」

小崎の申し出をバッサリ断りつつ、結莉乃は頬と目尻を赤くして顔を上げる。
小崎は期待に満ちた顔をしている。

小崎「……ねえ、これ、勘違いじゃないと思うんだけどさ」
結莉乃「何……」
小崎「川村さん、意外と俺のこと好きじゃない?」
結莉乃「調子乗んないでよばか、そんなの分かんないってば……!」
小崎「ほら! その『分かんない』ってのがさぁ! 前までは秒で『好きじゃない』だったのに、『分かんない』に進歩してんだよほら!」
結莉乃「もおお、うるさい! 大きい声で叫ばないで!」

真っ赤な顔で怒る結莉乃に対し、小崎は嬉しそうに向かい合って結莉乃を抱き寄せる。
悔しく思いつつも、結莉乃は抵抗できない。

小崎「はー、ほんと可愛い。しばらく会えなかったから俺のこと恋しくなっちゃったんだ? 愛おし〜」
結莉乃「……恋しくない」
小崎「そのわりには大人しく俺に身を任せてんじゃん」
結莉乃「どうせ抵抗しても無駄だと思って……」
小崎「ふーん。じゃあ今キスしようとしても抵抗せずに大人しくさせてくれるんだ?」

小崎の額がこつりと触れ、唇を小崎の指先がなぞる。
→結莉乃は急激に緊張が増す。

小崎「……ほら、嫌なら嫌って、ちゃんと言わないと」
結莉乃「……」
小崎「んー、あれぇ、嫌じゃないの?」
結莉乃「……っ」
小崎「何か言ってよ、じゃなきゃ本当にチューしちゃうよ?」
結莉乃「……い……」
小崎「んー?」

結莉乃「……いじわる……」

極度の緊張感の中、涙目になりながら声を絞り出した結莉乃。
小崎はフッと笑って心底愛おしげに目を細める。

小崎「……ばーか、それは逆効果でしょ」

呟いた直後、小崎の唇が結莉乃へと迫った。
→しかし互いの唇が触れ合う寸前で、加賀の声が割り込んでくる。

加賀「──何してんだお前ら」
結莉乃「!!」

驚いて小崎から咄嗟に離れる結莉乃。
参考書を持った加賀は上の階から階段を下りてくる。
→無表情に睨んでくる加賀に対し、小崎はげんなりと表情を歪める。

小崎「……げ」
加賀「うんざりした顔すんじゃねーよ、俺の方がうんざりしてるわ」
小崎「おいおいおい、加賀くん? もしかしてずっとそこにいた? 盗み聞きですか? 趣味悪いって」
加賀「ふざけんな、先にいたのは俺の方だ。お前らが後から来たんだろ」
小崎「え、じゃあマジで最初から聞いてたわけ? 最悪かよ空気読め」

一連のやり取りが加賀に聞かれていたということが判明し、結莉乃はいよいよ羞恥心がマックスに。

結莉乃「ま、またね、小崎くん!」

→立ち上がってその場から逃げ出す。

小崎「あ、ちょ、川村さん!」
加賀「あーあ、逃げられてやんの。やっぱ無理やりキスしようとしたから嫌がられたんだろな」
小崎「ふざけんな、どう考えてもお前がしゃしゃり出てきたせいだろ!」

じろりと加賀を睨み、小崎はぐしゃぐしゃと髪を掻き乱して壁にもたれる。

小崎「はー、最悪! せっかく久しぶりに川村さんとイチャついてたのに」
加賀「イチャついてる? ハッ、お前が一方的に結莉乃を振り回してるだけのくせによく言うよ」
小崎「はぁ?」
加賀「さっきのやり取り、どう考えてもお前が結莉乃の答えを誘導してただろ。断れない方向にさ」
「そうやって逃げ道をなくしていく……セコいやり方しやがる」

加賀は小崎に敵意丸出し。
小崎も落ち着いた様子ながら臨戦態勢。

小崎「……何が言いたいわけ」
加賀「警告してんだよ。結莉乃を傷つけたくないなら、恋人ごっこなんかもうやめて解放してやれ。お前と結莉乃じゃ絶対に釣り合いが取れない」
小崎「何それ? 釣り合うとか釣り合わねーとか、心底どうでもいいんだけど。俺は川村さんが好き。周りがどう言おうが、それがすべて──」
加賀「俺は価値観の話してんじゃねえ」

加賀は食い気味に小崎の意見を一蹴する。
→真剣な表情で小崎を見る。

加賀「よく考えろ。もしもこの恋人関係が嘘だったことがバレた時、責められるリスクを負うのは惚れてるお前じゃない。お前の気持ちを知っていながら、曖昧な関係を続けてきた結莉乃の方だ」
小崎「……っ」
加賀「人気者の光ってのは、妬み嫉みの影を多く生む。それに釣り合う光の強さを持ってるヤツじゃねえと、周りから責められた時にその影に飲み込まれちまう」
「結莉乃はお前ほど強くない。責められたら簡単に折れるし、後ろ盾がない。そういう意味で釣り合いが取れてねーんだよ、お前らは」
「たとえお前だけが責められたとしても、自分が全部悪いと思って塞ぎ込む。……結莉乃はそういう優しいヤツだろ」

脳裏に結莉乃のことが過ぎる小崎。
小崎は歯噛みし、加賀に近付いて胸ぐらを掴む。

小崎「川村さんが悪いわけないだろ」
「俺が無理言って始めたことだ。責められるのも俺だ。そうじゃないとおかしい」

加賀「お前は自分の影響力を分かってねーんだよ」
「もしお前らの関係がバレた時、たとえお前が自分の責任だと言おうが、人気者ってのはすでに持ち株がある。だから周りの方が過剰に騒ぐ」
「お前が責任を負おうとすればするほど、周りはお前を持ち上げる。そうなると庇われた結莉乃の方がヘイトを集めることになんだよ、それぐらい分かれよ!」

語気を強める加賀。
その言葉を否定できず、小崎は黙り込む。
加賀は小崎の手を胸ぐらから外しながら続ける。

加賀「結莉乃を傷つけたくなきゃ、周りにバレる前に別れろ。アイツを解放してやれ。俺が言いたいのはそれだけだ」
小崎「……」
加賀「もうじゅうぶんだろ、小崎。お前は散々いい思いしただろ。俺の欲しいもの全部持ってるくせに、自分が恵まれてることにも気づかないでよ」

警告して、加賀は去っていく。
誰もいなくなった非常階段に残された小崎は、しばらく呆然と立ち尽くし、やがて俯く。

小崎「……お前だって、持ってるじゃん」

→小崎の脳裏によぎったのは、夏祭りの時に加賀のことを気にかけていた加賀の家族。(特に母親)

小崎「俺がどんだけ欲しがっても、手に入らなかったもの……」

呟いた小崎が続けて思い出したのは、目の上の怪我して包帯を巻き、松葉杖を持った幼い頃の自分。
そして、父と離婚し、家を出ていってしまった、自分の母の後ろ姿だった。


第14話/終わり
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