【漫画シナリオ】小崎くんは川村さんを好きすぎている

15 小崎くんと告白の約束



⚪︎場所:新田あみりの家(夜)

ソファでダラダラしながらスマホをいじっているあみり。

あみり母「こらー、あみり! いつまでもスマホ触ってないで、さっさとお風呂入りなさい!」
あみり「はぁ〜い」

母に怒られつつ、まだダラダラ。
その時、あみりはスマホの画面を見て目をしばたたく。

あみり「ん?」
「……え? 何これ」

あみりが見ていたのは、SNSに投稿されたコメントのやり取り。
→同じクラスの女子たちの会話。

〈SNSの画面〉

『ねえ、そういえば変な噂聞いたんだけどさー』
『なになに〜』
『翠、二組の川村さんと付き合ってるじゃん?』
『うん』

『あれって、実は付き合ってなくて、偽装カップルってマジ?笑』

〈SNSのやり取り終わり〉


⚪︎場所:校庭(翌日午前中・結莉乃視点)

間宮・佐々木・高城と共にテントの設営を手伝っている結莉乃。
→学校内は完全に体育祭モード。

佐々木「うわ〜、赤団の横断幕、気合い入ってるね〜。『炎を纏って優勝に駆ける赤兎馬(せきとば)』だって〜」
間宮「あそこは美術コンクールで大賞取った部長がいるからね。さすが、クオリティやば」
高城「敵陣を褒めるんじゃありません二人とも! 我々白団の誇る『雪原に降り立ち優勝と共に去る白虎(びゃっこ)』も猛々しいでしょう!?」
結莉乃「相変わらず勝負事に熱いね、高城さん……」

他愛のない会話。
作業を続けていると、不意に佐々木が結莉乃の肩を叩く。

佐々木「あっ、川村さん、見てあれ! 小崎くんいるよ!」
結莉乃「えっ……!」

佐々木が指さす方向には、応援団の練習をしている小崎の姿。
太鼓の音に合わせて演舞の練習をしている。
→小崎の一挙手一投足に、周りの女子から歓声が上がっている。

団長「おい小崎ぃ! お前な、団長と副団長より目立つなよ! 先輩だぞこっちは!」
小崎「あはは、すんませ〜ん」

おどけながら演舞している小崎。
その姿をこっそり見つめ、ぽうっと見惚れてしまう結莉乃。
佐々木たちも結莉乃の隣で興奮気味。

佐々木「ひゃ〜っ、さすが小崎くん、様になる〜! 演舞もキレッキレ!」
間宮「黒団ってことは、本番では黒の長ランにボンタンでしょ。さらにかっこよくなるね〜、アレ」
高城「くっ、敵ながら見事ですね……! 負けていられません……!」

それぞれがうっとりと小崎を見つめる。
→その後、佐々木は羨望の眼差しで結莉乃を見る。

佐々木「はあ〜、いいなぁ〜、あんな彼氏いるなんて。川村さん羨ましい〜」
結莉乃「い、いや、そんな……」
間宮「でも、実際マジで川村さんって数多の女子から羨望の的だろうね。他校にも小崎ファンっていっぱいいるらしいし」

何気ない間宮の一言に、結莉乃はハッとして目を泳がせる。
体育祭には他の学校の生徒も見にくる
=小崎が注目の的になる
=その恋人である結莉乃も注目の的になる。

→不安げな結莉乃を佐々木がゆるーくフォロー。

佐々木「だ、だいじょーぶだよ〜。もし他校の女に何か言われても、私たちが川村さん守るし! ね!」
間宮「そうそう。安心しな、変な女はウチらが必ず排除する」
結莉乃「そ、そっか……」

ぎこちなく微笑みつつ、結莉乃は再び小崎を見つめる。
双葉と仲良さげに喋っている小崎。
それを見てやはり落ち込む。

結莉乃(体育祭、早く終わればいいのに……)

しょぼくれていると、再び佐々木が結莉乃に耳打ち。

佐々木「ねえ、それよりさ、例のフォークダンスはどうなったの? 小崎くんと踊れそう?」
結莉乃「え」
間宮「そうだよ、フォークダンス! 今のままじゃ順番が七組に辿り着くのは無理そうでしょ、ウチらでこっそり手回しして小崎くんと一緒に踊れるようにセッティングしよっか?」
佐々木「おっ、やっちゃう!?」
結莉乃「い、いやいや、大丈夫だよ! さすがにズルしてまで踊らなくていいから!」

佐々木と間宮の提案を丁重に断る結莉乃。
→だが、応援してもらえていることは素直に嬉しい。

結莉乃「……でも、色々ありがとね。応援してくれて嬉しいよ」
佐々木「ふふー、何言ってんの〜。恋する乙女は応援しなきゃ! ねっ、間宮!」
間宮「そうそう、恋する者は傍から見てても尊いものだからね」
結莉乃「……恋……」

佐々木たちの言葉に胸がとくりと跳ねる。
改めて小崎の姿を見つめると、風が背中を押すように吹き抜けた。
→なぜだかどうしようもなく、小崎のそばに行きたくなる。

結莉乃「恋、なのかな、やっぱり」

誰にも聞こえない声で呟いた結莉乃。

だが、その周囲では、他のクラスの女子が結莉乃を見つめ、ひそひそと何かを囁きあっていた──。


⚪︎場所:二年七組の教室(昼休み)

チャイムが鳴って昼休みになる。
二年七組の教室内、難しい顔で自分の席に座っているあみり。

樹「どーした、あみり。険しい顔して。便秘?」
あみり「違うわーい、このばかもの!」

デリカシーのない樹にチョップする。
それでもやはり険しい顔をしていると、応援団のミーティングが終わった小崎が戻ってくる。

樹「あ、翠だ。お疲れ〜」
あみり「!」
小崎「はー、疲れたぁ。メシ買いにいこ、樹」

樹を誘う小崎だが、あみりが突然挙手してその場に立ち上がる。

あみり「はぁい! 出席番号三十二番、新田あみり! 小崎選手の食料調達に付き合いますです!」
小崎「は?」
あみり「さあゆこう! ゴーゴーレッツゴー・レッツゴー購買!」
小崎「うわ、ちょ、あみり!?」
樹「おぉ? 何だ何だぁ?」

不思議がる樹を放置し、あみりは強引に小崎を教室から連れ出した。
→購買ではなく資料室へ。


⚪︎場所:資料室

だれもいないことを確認し、あみりは扉を閉める。
小崎は訝しげ。

小崎「おいおい、何だよ急に。購買行くんじゃねーの?」
あみり「ごめん翠、でもちょっとこれ見て」

あみりが取り出したのはスマホ。
→SNSの画面が映っている。

小崎「……!」

〈SNSのコメント欄〉

『ねえ、そういえば変な噂聞いたんだけどさー』
『なになに〜』
『翠、二組の川村さんと付き合ってるじゃん?』
『うん』
『あれって、実は付き合ってなくて、偽装カップルってマジ?笑』

『は、マジ?』
『うっそ、何それウケる。どこ情報?』
『いやいや、さすがに小崎くんのあの溺愛ぶりで偽装はなくない?笑』
『でもウチもその噂聞いたよ! 小崎くんの一方的な片思いらしいってやつ』
『でも付き合ってんじゃん』

『いやそれがね、あれって期間限定のお試しで付き合ってるだけっぽいんだよね』
『は? お試しって何?笑』
『やばw 川村さんが小崎くんのこと手玉に取って転がしてるってこと!?w』
『やるやん川村〜』
『いや待って、それマジだったら川村さんちょっと性格悪くない?』
『確かに〜。モテキング小崎様のこと捕まえといてお試しって何様なんだよ』
『翠くん可哀想』

〈SNS終わり〉

画面を見た小崎は驚愕して絶句。
あみりは恐る恐る問う。

あみり「ねえ、翠、これどういうこと? 何か変な噂回ってるみたいなんだけど……」
小崎「……これ、いつの書き込み?」
あみり「昨日の夜に見つけた。みんな鍵アカだから多分拡散されてるわけじゃないと思うけど、今日学校きたらすでにこの件が噂になってたよ」
小崎「……」

小崎の肌に汗が浮かぶ。

小崎(何でこんな噂が……まさか、双葉が俺らのことを流出させたのか?)

疑惑がよぎる。
→だが、それよりも結莉乃に対するヘイトがすでにいくつか見受けられることへの危機感がつのる。

小崎(まずい、昨日加賀に警告されたばっかだってのに、まさかこんな早くに……!)

焦りを覚えていると、不意にあみりが小崎の服の裾を引く。

あみり「ねえ、翠……これ、ガセだよね? 翠は、川村さんとちゃんと付き合ってるもんね……?」
小崎「……っ」

純粋に問うあみり。
小崎は一瞬後ろめたさを覚えたが、すぐににこりと笑ってうそぶく。

小崎「な、何言ってんの、当たり前じゃん。俺と川村さんは超ラブラブ。こいつらがテキトーなこと言ってるだけだよ」
あみり「そ、そうだよね!? はあ、よかった、安心した〜。川村さんのこと純粋に応援できなくなるかと思ったよ〜」
小崎「はは……」

→やはり嘘だと分かれば、友人たちからですら結莉乃が嫌な目で見られると感じてしまう。
→さらに焦る小崎。

あみり「変な噂流されて大変だねー、人気者は。ちゃんと誤解だって言っときなよ?」
小崎「うん……」
あみり「川村さん大丈夫かなー。この噂信じた人に変な嫌がらせとかされてないといいけど」

何気なく続いたあみりの言葉。
→小崎はハッとして危機感。

小崎「……俺、ちょっと二組行ってくる」

→資料室を出ていく。


⚪︎場所:二年二組の前

走ってきた小崎。
教室内を見るが、結莉乃がいない。
→その辺にいた女子(佐々木)に声をかける。

小崎「あの、ごめん、ちょっと聞きたいんだけど」
佐々木「あれっ、小崎くんだ! もしかして川村さんに用事?」
小崎「あ、そう! 話早くて助かる! 川村さんどこ?」
佐々木「んー、えーと……それが、今はここにいなくて」

歯切れの悪い返事。
→小崎は首を捻る。

佐々木「実は、さっき川村さん怪我しちゃったんだよね……」
小崎「……は!? 怪我!?」
(まさか誰かに嫌がらせされて!?)

佐々木「うん、だから今は保健室に──」

最後まで聞かず、小崎はダッシュで保健室に向かう。
残された佐々木はほっこり。

佐々木「あーんっ、やだぁ〜っ、川村さん愛されてるぅ〜!」


⚪︎場所:保健室前

治療を受け、保健室を出てきた結莉乃。

結莉乃「失礼しました〜」
保険医「はーい、お大事にー」

扉を閉め、ふう、と一息。
教室に戻ろうと踵を返すと、誰かが勢いよく走ってくる。
→小崎。

小崎「川村さんッッッ!!」
結莉乃「わああっ!?」

結莉乃びっくり。
お構いなしに小崎は詰め寄る。

小崎「怪我したって!? 大丈夫!? 生きてる!? 息してる!? 蘇生必要!? とりあえず人工呼吸しよっか!?」
結莉乃「お、落ち着いてよ小崎くん、どう見ても生きてるでしょ!」

結莉乃の肩を掴み、顔を近づけてくる小崎。
その顔面をベチン!と叩く結莉乃。
→呆れ顔。

結莉乃「もう、何なの急に……」
小崎「い、いや、怪我したって聞いたから心配で……大丈夫? 誰かに何かされた? 嫌がらせされてない?」
結莉乃「ええ? 大袈裟だってば。一人で転んで擦りむいただけだよ」

恥ずかしそうに言いつつ、怪我した箇所(腕)を見せてくる結莉乃。
力んでいた小崎は少し脱力する。

小崎「……そ、そっか。じゃあ、誰かに虐められて怪我したわけじゃないってこと?」
結莉乃「え? うん、全然違うよ?」
小崎「はあ……何だ、よかった」

汗ばむ額をぬぐい、ホッと息をつく小崎。
結莉乃はきょとんとしつつ、つい頬が緩む。

結莉乃「汗かいてるよ、小崎くん」
小崎「全力で走ったから……」
結莉乃「変なの。忙しくて全然会いにこなかったくせに、たったこれだけのために走ってきてくれたの?」
小崎「いや、まあ……うん」
結莉乃「ふふっ……」
「小崎くんって、本当に私のこと好きだね」

くすくすと笑う結莉乃。
小崎は驚いた表情で息を呑む。

→思い出したのは、最初に告白した時、『罰ゲームだ!』『悪ふざけだ!』と言ってまったく告白を信じてくれなかった頃の結莉乃。

小崎「……認めてくれんの? 俺が、冗談じゃなく、悪ふざけでもなく、本当に、川村さんのことが好きだって……」

か細く問いかける。
うっかり口が滑ってしまった結莉乃はハッと我に返って口元を手で覆い隠し、顔を赤くして目を泳がせる。
→だが、やがて観念したように口を開く。

結莉乃「み、認めるしかないでしょ……こんなにずっと、私に構い続けるんだもん……悪ふざけでやってるなら、根性ありすぎるよ……」
小崎「悪ふざけじゃない。からかってるわけでもない。俺、本気だよ。本気で君が好き」
結莉乃「わ、分かった! もう分かったから!」
「……小崎くんが、真剣なことは、もう、じゅうぶん分かってるから……」

結莉乃は恥ずかしそうに視線を落とす。
→どこか反省している様子の結莉乃は、意を決して言葉を続ける。(自分の服の裾をぎゅっと握る)

結莉乃「……ごめんね、小崎くん。最初、あなたの告白を、勝手にふざけてるって決めつけて、適当にあしらっちゃって……本当にごめん。勇気出してくれたのに」
小崎「……川村さん……」
結莉乃「小崎くんはすごいよ。私にまっすぐに思いを伝えて、断られてもめげずに追いかけてきて、純粋にすごい。すごくて眩しい」
「向き合う覚悟ができてないのは私の方だった。自分に自信がなくて、私なんか小崎くんに釣り合うわけないって言い訳して、あなたの眩しさから逃げてばっかり……」

ぽつぽつと語り、結莉乃は緊張した面持ちで顔を上げる。
小崎も緊張した表情で言葉を待つ。

結莉乃「ねえ、小崎くん……私、正直、まだ自分の心がよく分からない。恋とか愛とか、ハッキリ言える自信がない」
小崎「……」
結莉乃「でも、私……私ね。最近、すごく、小崎くんに会いたくなるの」
「小崎くんがキラキラして見えて、なぜか近くに行きたくなって、でも、他の女の子と話してるのを見ると、少しだけ嫌……」
「これって、やっぱり、そういうことかな……? どう思う……?」

真っ赤な顔でたずねる結莉乃。
小崎もふつふつと頬が赤くなる。

小崎「……ど、どう思う、って……」

期待と困惑が入り交じった表情。
→やがて生唾を飲み、結莉乃の肩を掴む手に力がこもる。

小崎「……あの、それさ、俺期待していいの?」
結莉乃「き、期待? と、言いますと?」
小崎「俺がもう一回川村さんにちゃんと告白したら、結構いい返事が貰えるんじゃねーかなっていう、期待」

じっと見つめてくる小崎。
結莉乃は恥ずかしそうに目をそらす。

結莉乃「そ、それは、その……私、まだはっきりとお返事を申し上げられないというか」
小崎「いやいや絶対申し上げられるだろ! どう考えても恋じゃんそれ! 川村さん俺のこと好きだろ絶対!」
結莉乃「すっ!? すすす好きとかじゃない! まだ分かんない! 一過性のものかもしれないじゃん! 偏頭痛みたいな!!」
小崎「俺に対する感情ってそんな気圧によって左右されるもんなの!?」

互いに向かい合ったまま騒いでいると、保健室から保健医が出てくる。

保健医「うっさいわ、このバカップル!! イチャつくのはいいけどよそでやれ、体調不良で寝てる生徒もいるのよ!!」
小崎・結莉乃「す、すみませんッ!!」

叱られる二人。
逃げるようにその場を去る。


⚪︎場所:廊下

廊下を歩きながら顔を見合わせる。

小崎「……怒られたね」
結莉乃「ね……」

ゆっくりと歩き、どちらともなく手を繋ぐ。
→互いに顔は逸らしているが、どちらも意識し合っている感じの初々しい空気感。

小崎「……あのさー」
結莉乃「ん……」
小崎「体育祭終わったら、色々忙しいのが終わって、会う時間も取れると思うからさ」
結莉乃「……うん」
小崎「そしたら俺、もう一回、改めて告白しに行ってもいい?」

顔を逸らしたまま問う小崎。
結莉乃はドキドキしつつ彼を見る。
→しばらくして目が合う。

小崎「……だから、その時までに返事決めといてよ」
結莉乃「……」
小崎「うーん、でも、できればいい返事がいいなあ。イエスとかイエスとかイエスとか」
結莉乃「……」
小崎「俺、めっちゃかっこよく告白すっからさ。だから、ちょっとだけ……ちょっとだけでいいから、期待するぐらい、許してくれる?」

顔を覗き込んでくる小崎。
結莉乃は恥ずかしそうに頷く。

結莉乃「……うん。分かった。頑張る……」
小崎「いや、頑張るのはどう考えても俺だけどね」

妙な会話にフッと吹き出し、小崎は結莉乃に微笑みかける。
→結莉乃は緊張で心臓がばくばく。

小崎「あーあ、ほんとに世界一可愛い。好きだよ川村さん」
結莉乃「……っ、そ、それは、本番の告白と何が違うの?」
小崎「んー? なんだろねー?」
結莉乃「からかってるでしょ……!」
小崎「あはは」

できるだけ長く一緒にいられるよう、ゆっくりと歩いて、二人はそれぞれの教室へと戻った。


第15話/終わり
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