【漫画シナリオ】小崎くんは川村さんを好きすぎている

3 小崎くんと加賀くん


⚪︎場所:学校の廊下(休み時間)

期末テストの翌週、成績優秀者の名前が掲示板に張り出されていた。
学年一位の欄には、堂々と『小崎翠』の名前が。

結莉乃「嘘でしょ……」
「私にくっついてばっかりで、全然勉強してなかったくせに……」

ガーン、とショックを受ける結莉乃。
(結莉乃は成績がふるわず、下から数えた方が早い)

納得がいかず呆然としていると、不意に目の前にいた男子生徒が振り返り、結莉乃にぶつかる。
→尻餅をついてしまう結莉乃。

結莉乃「きゃ……!」
男子生徒「チッ」

メガネをかけている黒髪の彼は、自分からぶつかっておきながら結莉乃を睨んで舌打ちし、去っていった。

唖然とする中、結莉乃は誰かに「大丈夫?」と手を差し伸べられ、立ち上がらせてもらう。
→結莉乃に手を差し伸べてくれたのは、いつも小崎を取り囲んでいる派手なグループに属すギャル・〈新田(にった)あみり〉だった。

あみり「今の、ひっどいね! 川村さん、怪我してない〜?」
結莉乃「あ、う、うん、大丈夫。ありがとう、新田さん」
あみり「んふふ、いいってことよ〜。でも、翠がいなくてよかったね! ブチギレてアイツのこと地の果てまで追いかけ回すとこだった!」
結莉乃(否定できない……)

新田あみりは、金髪ロングの髪を低い位置でふたつに結んだゆるふわギャル。
→目元も指先も女子力が高く、キラキラにメイクやネイルをしている。
本来ならば、結莉乃とは卒業するまで一度も関わりがなかったであろうタイプ。
よくも悪くも小崎の愛の暴走のおかげで、こうして交流する機会が増えていた。

あみり「今の男子、一組の加賀(かが)麟太郎(りんたろう)だよ〜。毎回テストで学年二位のヤツ」
結莉乃「え……そ、そうだったんだ」
あみり「そーそー。一年の頃から翠にライバル意識持っててさ、何かと対抗してくんの」
「今回もまた翠に負けたから、虫のいどころ悪かったんだろね」
「いやあ、妬まれる彼ぴっぴがいて大変ですなあ、彼女っぴ〜」

ニヤニヤするあみり。

結莉乃(うう、彼氏じゃないんだけどな……)

心苦しく思うが説明もしづらく、結莉乃は苦笑するしかなかった。
その時、あみりといつも一緒にいる男子・(いつき)があみりを呼ぶ。

樹「あみり〜、教室戻ろうぜ〜」
あみり「あ、呼ばれちゃった。またね、川村さん!」

あみりは笑顔で手を振り、樹の元へ駆け寄る。
→結莉乃も教室に戻ることにした。


⚪︎場所:教室

小崎から連投メッセージを受信。

小崎『あみりから、川村さんが男に押し倒されたって聞いたんだけど』
『どゆこと』
『俺も押し倒したことないのに』
『ずるい』
『ずるすぎ』
『俺も押し倒したい』

結莉乃(なんかすんごい誤解生んでるんですけど新田さん!?)

てへぺろ⭐︎みたいな顔で舌を出す新田あみりのイメージが脳内に浮かぶ。
→着信までかかってきたのでとりあえず出ることに。

結莉乃「はい、もしも……」
小崎『川村さん俺も押し倒していい!?』
結莉乃「うるさい嫌です」

ひとまず誤解であることを説明する。
しかし小崎はあまり納得していない様子。

小崎『わざとじゃないとしても、川村さんが他の男に組み伏せられて馬乗りになられたとか許せん』
結莉乃「なられてないんだけどな」
小崎『ねえ、代わりに今日の昼休み、俺に付き合ってよ。嫉妬で泣いちゃう』
結莉乃「ええ〜……」

乗り気はしなかったが、断ると拗ねそうなのでオーケーすることに。


⚪︎場所:非常階段(昼休み)

人目につかないよう、非常階段でランチ。
しかし思ったより上機嫌な小崎。

結莉乃「全っっ然泣いてないじゃん!」
小崎「くくっ、あれぐらいで嫉妬するほど心狭くないよ俺」

一緒にお昼ごはんを食べる口実にされたことに気づいて拗ねる結莉乃。
「拗ねてる川村さんも可愛い〜」と小崎メロメロ。

結局一緒にお昼ごはん。

結莉乃→お弁当。
小崎→サラダチキン。

結莉乃「え? 小崎くん、それだけ?」
小崎「うん。いつもこんなん」
結莉乃「嘘!? も、もしかして食事制限とかしてる?」
小崎「いや別に? 昼はあんま炭水化物取らないようにしてるだけ。午後が眠くなるし……」
結莉乃「でも、お腹は空くでしょ?」
小崎「まあ……でも夜はそれなりに食うよ。最近は弁当とかカップ麺も内容量減ったわりに値上がりしてっから、贅沢できないけど」
結莉乃(そ、それって、インスタントとかコンビニ弁当ばっかり食べてるってことじゃ……)

小崎の食生活がやや心配になる結莉乃。

結莉乃「ご、ご両親、忙しいんだね……あんまり料理はしない?」
小崎「んー、うち父子家庭だからさ。親父そこまで家事とか得意じゃないし、俺もバイトとかで時間なくて、料理はあんましない」
結莉乃「あ……そ、そうだったんだ」
小崎「そーそー。俺が小学生の時に離婚したんだよ。まあ、別に珍しくないっしょ? 今どき」

涼しげに語る小崎。[★この辺りは後々の伏線]
すでにサラダチキンは食べ終わっている。

結莉乃(も、もう食べ終わってる……絶対足りないよ、あんなんじゃ……)

やはり心配になり、結莉乃は自分の弁当のおかず(卵焼き、コーンバター、ウインナー)などを半分にして、自分の弁当のフタに盛り付ける。

結莉乃「はい、あげる……少ないけど」
小崎「え? あ、もしかして気遣わせちゃった? 大丈夫だよ、俺いつもこんなだし」
結莉乃「いや、その……ほら、私のクラス、午後から体育があって! あんまりたくさん食べるときついっていうか! だから食べるの手伝ってくれたら嬉しいなぁ〜、みたいな……」

苦しい言い訳を並べ立てているうちに、もしかして迷惑? 私おせっかいすぎ? と恥ずかしくなり始める。
しかし小崎はやがて不適に微笑む。

小崎「ふーん。……じゃあさ、『あーん』してくれる? そしたら食べる」
結莉乃「えぇ……」
小崎「うわ、めっちゃ嫌そうな顔すんじゃん傷つくわ」
結莉乃「だってそれとこれとは話が違うでしょ」
小崎「俺ら恋人でしょ〜? 男に川村さんが押し倒されたのまだ引きずってるんだからさ〜、ちょっとぐらい癒してよ〜」
結莉乃「それぐらいで妬いたりしないって言ってたくせに……」

わがままを言う小崎に呆れつつ、結莉乃はおずおずと卵焼きを箸で掴んで『あーん』する。
ぱくっと食べる小崎。
すると彼は真剣に結莉乃を見つめる

小崎「今のって、ファーストバイトだよね」
結莉乃「はい?」
小崎「つまりこれって実質、結婚……?」
結莉乃「違います」

辛辣に答えながらお弁当を食べすすめていると、非常階段の出入り口が開く。
そこから出てきたのは、廊下で結莉乃に尻餅をつかせた加賀麟太郎。

結莉乃「あ……!」(私にぶつかった人だ!)
小崎「あれ、加賀くんじゃん。悪いけど満席だよ〜、残念だったね」

飄々と対応する小崎に顔を顰め、加賀が睨みつける。
その目元にはクマがある。

加賀「……調子に乗るなよ、小崎。こんなとこで女遊びしやがって」
小崎「女遊び扱いとは心外だな〜。結婚前提真剣交際の真っ只中なのに」
結莉乃(しれっと盛るな)

心の中で突っ込む結莉乃。
加賀は苛立った様子で小崎を睨み続けている。

結莉乃(この人、たしか、小崎くんをライバル視してるんだっけ……)
(よっぽど嫌いなんだろうなあ、小崎くんを見る目がすんごい怖い……)

加賀の手には参考書とカロリーメイト。
小崎は目を細めてため息。

小崎「……俺が言えたことじゃないけどさあ、加賀くんはもうちょっと自分の身を労ったら?」
「昼メシ、毎回そういう携帯食っぽいビスケットとかゼリーで済ませてるでしょ。追い込みすぎなんじゃない? そのうち倒れるよ」
加賀「あ? お前に関係ないだろ。主席だからって余裕ぶりやがって、俺に指図すんじゃねえ」
小崎「そういうんじゃなくてさ、がんばりすぎなんだよアンタは」
加賀「黙れ、お前に何が分かんだよ。知ったような口聞くな」

毒付いて踵を返す加賀。
しかし小崎が低い声で呼び止める。

小崎「待てよ加賀。お前謝んの忘れてんぞ」
加賀「あぁ? 何で俺がお前に謝らないと──」
小崎「俺じゃねーよ。川村さんに謝れ」

突然名前を出されて驚く結莉乃。
小崎は怒気をあらわに加賀を睨んでいる。

小崎「お前がぶつかって川村さん転ばせたんだろうが。あみりから聞いてんだよ全部」
加賀「……」
小崎「謝れよ」

ちらっと結莉乃を一瞥する加賀。
しかしすぐに顔を逸らしてしまう。

加賀「……お前の女がどんくせえのが悪いんだろ。誰が謝るかよ」

加賀はそのまま立ち去っていく。
やれやれと小崎は嘆息した。

小崎「ごめんね、川村さん。アイツだいぶひねくれてんの」
結莉乃「だ、大丈夫だよ! 怪我とかなかったし、新田さんがすぐ助けてくれたから……」
小崎「怪我はなくてもムカつくだろ。好きな女の子が理不尽に突き飛ばされて転んでんだよ? しかも謝りもせずどっか行ったっていうし、マジで腹立つ」

めずらしく不機嫌そうに語る小崎。
結莉乃は戸惑ったが、怒ってくれたことに少しだけ嬉しさも芽生えて頬を赤らめる。

結莉乃「……小崎くんって、怒ることあるんだね」
小崎「俺も人間なんでねぇ」
結莉乃「ふふ……ちょっとだけ嬉しかった。ありがとう」

小崎、びっくりした顔で硬直。

小崎「川村さんって、笑うことあるんだね……」
結莉乃「な……! あ、当たり前でしょ、どういう意味よ!」
小崎「だって俺といる時、いつも怒ったり困ったりしてんだもん」
結莉乃「それは小崎くんが怒らせること言うのが悪いの! ふんっ、もういい、ごちそうさま!」
小崎「あ、待って、川村さん」

拗ねてしまった結莉乃に優しく呼びかけ、弁当箱のフタを返す。

小崎「俺のことも、心配してくれてありがと。おいしかった」

微笑まれ、『キュン』と胸が狭まる結莉乃。

結莉乃(いや待て、何がキュンだ!)

結莉乃は赤い顔でかぶりを振り、小崎から弁当のフタを受け取る。
そのフタを閉めながら、彼女は考えた。

結莉乃(……もし、私がお弁当作ったら、小崎くん喜ぶかな)

結莉乃は迷いつつ、小崎の横顔をこっそりと見つめるのだった。


第3話/終わり
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