【漫画シナリオ】小崎くんは川村さんを好きすぎている

8 小崎くんと球技大会


⚪︎場所:体育館

期末テストも終え、来たる夏休みを前に、開催された『球技大会』。
結莉乃はスポーツがあまり得意ではなく、開会式の最中からすでに憂鬱だった。

結莉乃(はぁ〜……球技大会なんてほんと最悪)

結莉乃の参加種目は卓球。
(種目はサッカー・バスケ・卓球)
憂鬱だったが、これさえ終われば夏休みだからがんばろうと自分に言い聞かせた。

直後、結莉乃は背後から抱きしめられる。

小崎「川村さ~~~んっ!!」
結莉乃「ぎゃあっ!」

小崎の腕の中にすっぽりと収まり、大袈裟に驚く結莉乃。
小崎はお構いなしに頬擦り。

小崎「はあぁ、普段クラス離れてるから体育着の川村さん見れるのレアすぎる~~! 超似合う! 超可愛い! 川村さん天使!!」
結莉乃「た、体育着似合うって言われても、そんなに嬉しくないんだけど……」
小崎「何言ってんのこんな可愛いのに! 川村さんなら腹巻きひとつでも可愛いし部屋着でも可愛いしパジャマでも可愛いし俺の隣で毎朝目覚めてほしいです! 結婚しよう!!」
結莉乃「うるさい! 暑い! 離れろ!」

とにかくうるさい小崎を真っ赤な顔で引き剥がそうとする結莉乃。
すると、そこに何者かがやってくる。

高城「こら、そこ! 敵と馴れ合わない!」
結莉乃「ひゃ!?」

ぴしゃりと口を挟み、小崎から結莉乃を引き剥がしたのは、結莉乃のクラスの委員長・高城(たかぎ)さん。
→見た目:赤ぶちメガネ・黒髪・ポニーテール。

ぎくりと冷や汗をかく結莉乃。
高城は両腕を組み、結莉乃を睨んだ。

高城「いいですか、川村さん。いくら交際しているお相手と言えど、本日の球技大会はクラス対抗……つまり彼とは敵同士! 悲しきロミオとジュリエットなのです! 過度な接触は認められません、いいですね!」
結莉乃「は、は、はい……すみませんでした……」
小崎「えー、ちょっとぐらいイチャイチャしてもいいじゃん。高城さんは相変わらずお堅いね〜」
高城「お黙りなさい敵兵! 前回の雪辱は必ず果たしますよ、憎き七組め!!」

※小崎は七組、結莉乃と高城は二組。
※七組は一学期初頭のクラスマッチで優勝している。

結莉乃(高城さん、普段は静かで真面目なのに、勝負事になると熱いんだよね……)

結莉乃が苦笑していると、もう一人その場に近づいてくる足音が。
「翠〜」と呼びかけながらその場にやってきたのは、小崎の取り巻きをしている派手なグループの中に所属している女子・有沢(ありさわ)双葉(ふたば)
→見た目:美人。長身、モデル体型。ロングの黒髪に赤のグラデ。

双葉「何してんの、あたしらバスケでしょ。モタモタしてないでこっち来な、準備するよ」
小崎「えー、どしたの双葉〜。珍しくやる気満々じゃん、いつも球技大会ダルいっつってんのに」
双葉「うっせーバカ。早く来いっつーの」
小崎「いたたたた、分かった分かった、髪引っ張んなってハゲる!」
「それじゃ、またあとでね、川村さん! 超愛してる!」

双葉に腕を掴まれ、引っ張られながら手を振る小崎。
結莉乃も呆気に取られつつ、小さく手を振った。

やがて双葉は一瞬振り向き、結莉乃を一瞥して、何事もなかったかのように去っていく。(少し睨むような感じ)
→結莉乃は少しだけ不思議に思ったが、あまり気に留めなかった。

結莉乃「小崎くん、バスケなんだ……私は卓球だから別の会場だし、活躍見れないな……」
高城「言っておきますが、あなたのロミオがバスケを選んだせいで、うちのクラスでは女子がこぞってバスケを選択しましてね」
結莉乃「え」
高城「つまり卓球(こちら)の戦力が著しく乏しい状態です。あなたには責任を取って(点数稼いで)もらいますよ、川村さん」
結莉乃「そ、そんなあ〜!」

ずるずると引きずられ、球技大会は幕を開けた。


⚪︎場所:学校/卓球場

見事に敗退した結莉乃たち。
会場の隅っこで座っている。

高城「くっ、やはりバスケに戦力を取られたのが仇となりましたか……なすすべなくやられましたね……」
女子A「さっき聞いたんだけど、バスケもうちのクラス負けたらしいよ〜」
高城「何ですって!?」
結莉乃(まあ、小崎くん目当ての女子ばっかりで構成されたチームだろうし、仕方ない……)

苦笑する結莉乃。
悔しそうにしている高城。

高城「くぅぅ……! こうなっては、もはやサッカーの男子たちに命運を託すほかありません……! こうしてはいられないわ、今すぐグラウンドに応援にいきますよ!」
女子A「あっ、ちょっと待ってよ、高城さーん!」

ぱたぱたと走っていく女子たち。
結莉乃もあとを追おうとするが、不意に肩を叩かれた。

佐々木(ささき)「川村さん、川村さん」(小声
結莉乃「!」
間宮(まみや)「川村さんはさ、小崎くんの試合の応援に行った方がいいんじゃないの?」
佐々木「そうそう、小崎くんたち、バスケ勝ち残ってるらしいよ。次が決勝だって」
間宮「行ってあげな。高城さんのことは、うちらがうまくごまかしとくからさ」

こそこそと耳打ちしてくるクラスメイト。
→佐々木、間宮。仲良し二人組。
→佐々木がややぽっちゃりしたゆるふわの天然パーマで、間宮がクールビューティ系の黒髪ストレート。

結莉乃は顔を真っ赤にする。

結莉乃「ええ!? いやでも、そんな……私なんか、行っても邪魔だろうし……」
佐々木「何言ってんの、小崎くんめちゃくちゃ喜ぶよ!」
間宮「そうだよ、小崎くんは川村さんのそばにいる時が一番いい顔してるから!」
結莉乃「……そ、そうかな……でも……」

結莉乃の脳裏に、過去の自分が蘇る。
→回想へ。


〈中学時代の回想〉

トイレで女子たちが陰口。

「川村さん、植原くんと付き合ってるってマジかな〜?」
「いや、さすがに釣り合わないって」
「自分が冴えないこと自覚してないんだよ」
「てかどっちから告ったんだろ」
「いや植原くんからはありえないでしょ」

けらけら笑う声を、トイレの個室の中で聞いていた結莉乃。
冴えない自分が恥ずかしい。彼氏になった植原に申し訳ない。
そう考え、ずっとひとりで俯いていた。

〈回想終わり〉


結莉乃「私じゃ……小崎くんに、釣り合わなくない……?」

引きつった笑顔。
→過去の自分が足を引っ張り、声が震える。
しかし、佐々木と間宮はきょとんとして顔を見合せた。

佐々木「いや全然?」
間宮「そんなふうに思ったことないけど」
結莉乃「……へ?」
佐々木「むしろ、あんなに素の小崎くんを引き出せる川村さんすごいなって尊敬してるよ! 小崎くんってほら、ずっと何考えてるのかよく分かんない人だったからさ」
間宮「分かる〜。目の上に傷あるし、ちょっと怖い雰囲気の人だと思ってた。でも、今はただの強火オタクじゃん? 親近感わいたよね、小崎くんも同じ人間なんだなって」
佐々木「ね〜」

想定外の発言に、結莉乃は呆然。
佐々木と間宮はにこやかに結莉乃の肩を叩く。

佐々木「なぁにー、川村さんったら周りの目をそんなふうに気にしてたの? そんなん気にしなくていいって〜」
間宮「確かに小崎くんはモテるから、カノジョのこと良く思わない人たちもいるだろうけどさ。少なくともウチらは、川村さんと小崎くんのこと応援してるよ」
佐々木「川村さんといる時の小崎くん、おもろいしね!」
間宮「ほんとほんと。小崎くんがあんなおもしれー男だって気づかせてくれた川村さんに感謝だよ」

二人に背中を押される結莉乃。

間宮「ってわけで、小崎くんのとこ行ってきな。彼氏の勇姿だけでも見てあげてよ」
佐々木「ふふっ、高城さんのことは任せて〜!」

結莉乃は気恥ずかしくなりながらも、二人に頷く。

結莉乃「佐々木さん、間宮さん、ありがとう」

お礼を告げて、結莉乃は体育館へと駆けていった。


⚪︎場所:体育館

体育館に入ると、すでに大盛り上がり。
バスケの試合は第4クォータ目らしく、点差は二点。
小崎たち七組が負けている状況だった。

結莉乃(す、すごい試合してる。めちゃくちゃ盛り上がってるなあ)

こっそりと体育館の隅に身を潜め、試合を見守る。
相手は一組で、加賀がいるチームだった。
ボールを受け取った小崎は加賀にしつこくマークされ、なかなかパスやドリブルを通させてもらえない。

結莉乃(わぁ、あの二人、こんなところでも勝負してるんだ……)

結莉乃が見守る傍ら、小崎はチーム内の双葉にパスを通す。
※双葉は女バス経験者。

双葉はドリブルでゴール下に潜り込み、すばやくシュートして加点した。(+2点)

樹「おおお! 同点に追いついたぞ!」
あみり「いけー! 双葉ー! 翠ー!」

しかし、立ち上がりに素早いパス回しで加賀がボールを受け取って独走。
そのままレイアップシュートを決められ(+2点)、再びゲームは二点差に。

樹「おああ〜!! マジかよ!!」
あみり「ちくしょう加賀めぇ〜!」
樹「もうあんま時間ないぞ、翠! 走れ走れ!」

タイマーを見ると、残り時間が三十秒を切っている。
結莉乃もハラハラして両手を握り合わせた。

結莉乃(こ、小崎くん、がんばれ……!)

残り二十秒。
→小崎に通されるはずだったパスが加賀にカットされる。
小崎がチッと舌打ち、加賀はにやりと笑ってカウンター。

樹「やばいやばい、加賀ノーマークだ!」
あみり「ひいいっ、この時間で四点差以上になったら絶望的──あっ!」

加賀がゴールまで突っ走ったその時、あみりは結莉乃の存在に気づき、声を張り上げた。

あみり「翠ーっ!! 川村さんが見てるよーーッ!!」

その声を耳にした瞬間、加賀と小崎が同時に反応する。

ガコンッ。
気を取られた加賀が放ったシュートはゴールの枠に当たり、こぼれ落ちた。

→残り十秒を切る。
小崎はぎらりと目を輝かせ、床を蹴り込んで跳び上がる。
加賀は小崎のリバウンドを阻止しようと床を蹴るが間に合わず、小崎がしっかりリバウンドを取った。

樹「ギャ〜〜〜! さすが翠〜〜〜!!」
あみり「いけえええ!! これぞ愛の力ぁぁぁ!!」

残り八秒。
加賀のマークを振り切って小崎がカウンター。
素早くパスを回すが、相手のディフェンスラインが固く、チームメイトはゴール下に入り込めない。
そして残り三秒になったところで、ボールはスリーポイントラインの外にいる小崎へと戻ってきた。

残り二秒。
結莉乃は思わず息を吸い込み、声を張る。

結莉乃「小崎くん、打って!!」

その声を聞いて、フッと口角を上げる小崎。
トンと高く跳び、小崎は綺麗なフォームでシュートを放つ。
弧を描いて放たれたボールは、タイマーがゼロになると同時にゴールへと吸い込まれ、ブザー音と歓声が体育館に響く。

司会『試合終了ーー! クラス対抗バスケ、優勝は二年七組ーー!』

樹「うわあああ〜〜〜逆転だぁぁぁ!!」
あみり「ギャアアーー!! 翠〜〜!! 最高〜〜!!」

歓喜するクラスメイトに駆け寄られる小崎。
彼は汗を光らせながら笑い、クラスの輪の中にもみくちゃにされて見えなくなった。
(加賀は悔しそうに頭を抱え、遠くで座り込んでいる)

結莉乃は歓声の中でぽんやりと立ち尽くし、ドキドキと波打つ胸を押さえていた。

結莉乃(どうしよう、こんな大声出したの初めてかも)
(しかも、小崎くん、すっごくかっこよかった、かも)

先ほどの勇姿を思い返し、頬が熱くなる。
大盛り上がりの中、大会実行委員の司会が小崎にマイクを向けた。

司会『それでは、本日の優勝に大きく貢献したヒーローへインタビューしてみましょー! 小崎くん、今の気持ちは!?』
小崎『川村さん結婚して〜〜〜〜!!!』(※大声
生徒たち「ヒューー!!」「キャーー!!」

結莉乃「うぇああぁ!? ちょっと、何言ってんのっ!?」

小崎の発言により、冷やかされながら小崎のもとへ押し出される結莉乃。
あたふたしながら小崎の隣に連れていかれ、マイクを差し出される。

司会『さあ! 小崎くんからの熱烈なラブコール……いえもはやプロポーズがありましたが、二年二組の川村結莉乃さん、ずばり返事は!?』
結莉乃『へあ!? えっ、えっと、返事ってそんな……っ、ば、ば、バカぁっ!!』
司会『おーっと、これは素晴らしい照れ隠し! 小崎くんメロメロです!』
小崎『ハワイで挙式しまぁぁぁす!』
結莉乃『ふざけんなこのやろおおお!』

悪ノリする小崎をぽこぽこと叩いていれば、「ヒューヒュー!」「イチャイチャすんな小崎ー!」などと黄色いヤジが飛ぶ。
大いに盛り上がる会場。
嬉しそうな小崎の姿を、あみりと樹は満足げに眺めていた。

あみり「いやー、マジ危なかったぁ。翠ってば完全無敵のヒーローすぎ、あれは伝説になるっしょ〜」
樹「翠はマジで川村さんが絡むと超人になるよな」
あみり「ほんとほんと、川村さんの名前出したら急に本気になっちゃってさぁ。最初はふざけて好き好き言ってんだと思ってたけど、あれはガチで川村さんラブだよね」
樹「愛の力だわ〜」

談笑していると、黙って歩いてくる双葉の姿が。
→樹が笑いかける。

樹「あ、双葉もお疲れ! かっこよかったぜ!」
双葉「…………」
樹「ん? あれ? 双葉〜?」

タオルで汗を拭きながらあみりたちの元へやってきた双葉は、祝福されて嬉しそうな小崎と結莉乃を無表情に見ている。
しばし彼らの姿を見つめていた彼女は、やがて二人から目を逸らし、「そうだね、お疲れ」と微笑んだ。


第8話/終わり
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