【書籍&コミカライズ】魅了持ちの姉に奪われる人生はもう終わりにします〜毒家族に虐げられた心読み令嬢が幸せになるまで~
「参考になりそうだなぁって。ねえ、オティリエはこの物語について聞いた時、どんな王子様を思い描いていた?」

「どんなって……?」

「髪型とか雰囲気とか、こんなだったらいいなぁって理想像があったんじゃない?」

「そ、そんなこと、恥ずかしいのでこたえられません」


 こたえながら、オティリエのドキドキが強くなっていく。ヴァーリックが心読みの能力者じゃなくてよかったと心から思った。


「どうして? 大事なことなのに」

「からかうのは止めてください。それに……」


 オティリエは抱えたままの本にチラリと視線を移し、それからヴァーリックを見る。


「私にとっての王子様はヴァーリック様だけですよ」


 気高く美しくそれから優しい、オティリエの理想を超越した王子様。どんな書物を読んでも、たとえ他国の王子様と会う機会があったとしても、オティリエにとっての王子様はただ一人。ヴァーリック以外にはありえないのだ。


「……そっか」


 ヴァーリックは口元を手のひらで覆いつつ、オティリエからそっと視線を逸らす。ほんのりと染まっていく頬。どうしてそんな反応をするのか――知りたいと思っても、ヴァーリックの心の声は聞こえてこない。首を傾げるオティリエに、ヴァーリックはほんの少しだけ苦笑を浮かべる。


【本当はオティリエだけの王子様になりたいって――そこまで伝えられたらいいのに】


 みんなにとっての王子様じゃなく、オティリエただ一人の王子様に。
 今はまだ言えない本音を無効化の能力で全力で隠しながら、ヴァーリックは「ありがとう」と笑うのだった。
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