【書籍&コミカライズ】魅了持ちの姉に奪われる人生はもう終わりにします〜毒家族に虐げられた心読み令嬢が幸せになるまで~
「挿絵でタイトルがおわかりになる――ということは、ヴァーリック様はこの本を読んだことがおありなのですか?」

「うん。発売されてすぐに読んだよ。母が恋物語が好きでね、半ば強制的に読まされたんだ。『あなたも将来こういう男性になりなさい』ってね」


 ついつい当時の様子を想像してしまい、オティリエがクスリと笑う。ヴァーリックは嬉しそうに目を細めた。


「オティリエは?」

「読むのはこれが初めてです。けれど、侍女たちが噂していたので内容はなんとなく把握しています。たしか、継母や義理の姉に虐げられていたヒロインが、ある日突然王子様に見初められ、幸せになるんですよね?」


 オティリエは先程流し読んだ内容と、過去の記憶とを思い出しながら説明をする。
 辛い境遇に置かれたヒロイン。このお話について考えているとき、女性陣はヒロインと自分を重ね合わせて『自分もいつか王子様に見初められて……』なんて妄想をよくしていた。人それぞれ思い描く王子様像が違っていたので、幼いオティリエは感心したものだ。
 なお、イアマはというと、ヒロインがウジウジしていて鬱陶しいとか、虐げられて当然だとか、王子様の見る目がないことに腹を立てていたのだが。


「そうそう。当時の僕は子供だったし、自分自身が王子という身分だから、正直面白さがよくわからなかったんだけど」


 ヴァーリックは微笑みつつ、オティリエを見つめる。なんとなく恥ずかしくなって、オティリエは本をパタンと閉じた。


「あの、私は子供の頃に周りの大人がこの本の噂をしていたなぁって思い出して、なんとなく手にとってみただけなんです」


 我ながら言い訳がましいと思いつつ、オティリエはほんのりと俯く。すると、ヴァーリックは「そうだったんだね」とこたえながら、オティリエの頭をそっと撫でた。


「僕も久々に読んでみようかな。――今読んでみたら、感じ方が違うかもしれないし」

「え?」


 どうして?とオティリエが尋ねるまもなく、ヴァーリックが目を細める。


「だって、僕がオティリエの理想の王子様になりたいから」

「へ?」


 どういう意味ですか?と聞きそうになるのをぐっとこらえ、オティリエはゴクリとつばを飲んだ。心臓がドキドキと鳴り響く。顔だって真っ赤に染まっているに違いない。オティリエは本を高く持ち上げ、自分の顔と動揺を隠した。


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