おもてなしは豪華客船の学園で

第5話 どうしてこうなった⁉

〇私立鳳凰高校実習船 鳳凰Ⅱ・客船エリア・高級和食料理店『KAZAN』・個室
  ふすまで仕切られた隣の部屋で盗み聞きしていた小鳥遊、飛渡、愛、夏越を前にあきれ顔の蓬莱。
  桜は状況が分からず、呆然としている。
蓬莱「小鳥遊、しゃべったな」
小鳥遊「国賓実習はグループS全員に関わることだからね」
飛渡「愛ちゃんが行くって言いだしたんだよね」
愛「飛渡だって面白そうって言ったじゃない!」
夏越「俺はどちらでも良かったのだが、この店と聞いて来ることにした」
愛「だって大翔がそこまで評価するんだったら見てみたいじゃない! 駄目な女だったら断固反対するし‼」
桜(心の声)「何なの、この状況⁉」
小鳥遊「とりあえず自己紹介しないとね」
  言葉を失っている桜を見る。
小鳥遊「俺は小鳥遊 悠。社交科の2年。ヨロシク」
飛渡「僕は飛渡 新。桜ちゃんと同じおもてなし科の2年」
夏越「俺は夏越 樹。おもてなし科の2年」
愛「饗庭愛。社交科2年」
  流れ的に仕方なく自己紹介する桜。
桜「天月 桜です。おもてなし科の1年です」
桜(心の声)「私、いろいろと引けない状況に陥りつつあるのでは…」
  暗澹たる気持ちになる。
  *  *  *
  ふすまを開けたまま、二部屋で会食する一同。
飛渡「声でお客様を覚えるなんて凄いよね」
小鳥遊「コンシェルジュデスクでの応対も完ぺきだったしね」
夏越「先ほどの料理に対する評価も的確だった。どこでそんな知識を?」
桜「私の実家の家業が旅館の『饗庭荘』というところでして」
愛「もしかして有名な老舗旅館の⁉」
桜「そうです。私は将来継ぐべき女将として幼い頃より、接客はもとより語学、文化、料理など多岐にわたる教育を受けてきました」
  桜の話に納得の表情が浮かぶグループSメンバー。
桜「ただあまりにも厳しかったので、寮のあるこの学園に逃げるようにして来たんです。結果として実習費などは自分で払う羽目になってしまいましたが」
小鳥遊「なるほどね」
  深くうなずく。
蓬莱「しかし、俺は君からおもてなしへの矜持を感じた」
飛渡「それは学ぶことができないものだよね」
桜「そうですね」
  少し考える。
桜「結局、私は人が喜ぶ姿を見るのが好きなのかもしれません」
  穏やかな笑顔を見せる。
小鳥遊「いいね、それ」
飛渡「基本はそこだよね」
蓬莱「それであれば、助手は引き受けてもらうしかないな」
  満足げな表情。
桜「それとこれとは話が別です!」
  焦る。
蓬莱「引き受けてくれないのか」
  少し悲しそうな表情を浮かべる。
桜「うっ」
  意外な表情に言葉が詰まる。
  一転して蓬莱が笑みを浮かべる。
蓬莱「国賓実習の助手は実習単位が倍だ」
桜「!!!」
  目を見開く。
蓬莱「誰でもできるわけではないからな。実習単位を稼ぐには最も効率がいい。さらに成功すれば、特別評価点も上乗せされる。成績は要領だといったよな」
桜(心の声)「私にとってもいい話というのはそういうことか」
  考える。
桜(心の声)「しかも他の余計な実習を減らせるから、その分バイトができる…」
  口元に笑みが浮かぶ。
桜(心の声)「いやいや、ここでこの人に深入りすると面倒なことになりそうな予感がする。流されてはいけない!」
  一人で煩悶する。
飛渡「一緒にやろうよ! 愛ちゃんも納得でしょ?」
愛「仕方ない…」
夏越「俺も異論はない」
小鳥遊「決まりだな!」
蓬莱「そういうことで頼んだ」
  満足げな一同に断りようがなくなった桜。
桜(心の声)「どうしてこうなった…」
  放心。

〇海(朝)
  翌日。
  航海を続ける鳳凰Ⅱの外観。

〇鳳凰Ⅱ・船内・学園エリア・中庭テラス
  芝生の上で桜を質問攻めにしている結衣と千夏。
千夏「じょじょ助手!?? 何で!???」
結衣「てていうか、どうして蓬莱先輩と知り合いなんですか⁉」
桜「いろいろあってね…」
  疲れた表情を浮かべる。
  *  *  *
千夏「なるほどね」
結衣「凄いことですよ、桜さん‼」
千夏「アンタは本当によくできた子だよ! 母さんは嬉しい‼」
  涙を流す演技。
桜(心の声)「娘になった覚えはないのだが」
千夏「桜の友達ってことでグループSにお近づきになれる‼」
桜(心の声)「そっちか‼」
  内心でツッコミ。

〇同・客船エリア・コンシェルジュデスク
  カウンター内で実習中の桜。
桜(心の声)「そろそろ昼休みだ。今日は千夏とお弁当の約束だったな。結衣はバイトだし」
  そこへ案内係の千夏が焦った様子でやって来る。
千夏「昼休み、急なバイトが入っちゃって。お弁当作ってもらったのにゴメン!」
  両手を合わせて謝る。
桜「仕方ないよ。一人分作るのも二人分作るのも変わらないから気にしないで」
千夏「ほんとゴメン!」
  急いで担当場所に戻っていく。
桜(心の声)「とはいえ、千夏の分の弁当、どうしよう。他に友達もいないしな」
  困っていると声をかけられる。
レオン「こんにちは」
  日本語で話しかけてくる。
桜「あっ、昨日の…」
レオン「君に紹介された映画、素晴らしかったよ‼」
桜「良かったです。日本語もお出来になるんですね」
レオン「日本に留学したくて、勉強しているのさ。日本語を使ったほうが練習になると思ってね」
桜「とてもお上手ですよ」
レオン「ありがとう」
  素直に喜ぶ。
レオン「ところで日本についていろいろ聞きたいし、ランチを一緒にどう? この後ご予定は?」
  笑顔で誘う。
桜(心の声)「予定はないけど、弁当なんだよな。どうしよう…」
  内心で困惑する。
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