皇帝陛下がやっぱり離縁したくないと言ってくるのですが、お飾り妃の私が伝説の聖女の生まれ変わりだからですか?
その夜、エリーヌは夢を見た。
エリーヌはミュリエルという名の、どこかの国の王女だった。それも人々から聖女と崇められるほど、強い魔力を持っているようであった。

戦いで傷ついた戦士たちを癒し、荒れた大地を蘇らせ、人々に安らぎと生きる気力を与えるという、偉大な力を存分に発揮していた。

夢とは、ときに願望が投影されるもの。もしかしたら気づかぬうちに抱いていたエリーヌの願いが、夢となって現れたのかもしれない。魔石を持ちながら魔力を持たない自分に引け目を感じ、誰かの役に立てるような魔法が使えたらいいのにと。

夢の中のミュリエルという名のエリーヌは、優しい魔法を使う女性だった。


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