皇帝陛下がやっぱり離縁したくないと言ってくるのですが、お飾り妃の私が伝説の聖女の生まれ変わりだからですか?
そしてきっと、ふたりが無事だという知らせは宮殿じゅうに駆け巡っているだろう。

しかしエリーヌは、アガットのように喜んでいる人ばかりではないような気がしていた。

〝やはりあの魔石はただの石だったのだろう〟とエリーヌを揶揄する声や、〝これで陛下の強力な魔力の継承は難しくなったな〟と将来を懸念する声があってもおかしくない。


「お体は大丈夫ですか?」
「体?」
「その、つまり昨夜……」
「あっ」


アガットが恥じらうようにして初めて、その言葉の意味を察したエリーヌも顔が赤くなってしまった。そのような行為はなかったというのに。


「だ、大丈夫よ」
「そうですか。よかったです。寝台はあとで整えますので、先にエリーヌ様のお支度をさせていただいてもよろしいですか?」


アガットにお願いされるまま鏡台の前に座った。
ピンクブラウンの長い髪に櫛が通され、丁寧にとかされていく。


「エリーヌ様の髪はサラサラでとても綺麗ですね」
「ありがとう」
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