リングノート〜必ず君を甲子園に連れて行く〜

気づいてしまった本当の気持ち

それから1ヶ月も経たない頃、

春の甲子園出場をかけた

秋季地区予選が始まった。

俺は、左足首を怪我していた頃に

トレーニングをしたおかげで、

球速は149キロまで上がっていた。

俺はメディアからも"スーパー高校生"

と呼ばれて注目されており、

俺たち表洋学園が春の甲子園に行くのは

間違いないだろう、そう言われていた。


ついにやってきた秋季地区予選第一試合。

俺たちの相手は運の悪い事に、

この地区のもう1つの強豪校である

徳川嵐高校だった。


『表洋学園vs徳川嵐高校』

あの悪夢の日が蘇る。

1年前、夏の甲子園が決まる県大会で

俺は徳川嵐にホームランを打たれて

俺のせいで表洋学院は負けたんだ。

マウンド上でその日の事が蘇ってきた。

こんな時に俺は何を考えているんだ。

これじゃいけない。

そう思って、海斗のミットめがけて

力を込めて思いっきり投げる。

しかし思う様にストライクが入らない。

何とか三振を取らなくては、、、。

そんな思いと反比例する様に、

塁には、1人2人と走者が溜まっていった。

連続フォアボールとヒットで、

結局俺は1回に3点を取られた。

1回表が終わり、俺はベンチに戻る。

こんなのありえない。

全然ダメだ。

これじゃあ1年前の夏と

何も変わっていないじゃないか。

そう落ち込んでいる俺に、

みんなが優しい言葉をかけてくれた。

いつもは怖い工藤監督でさえ

お前なら大丈夫だ、落ち着いていこう。

そう優しい言葉をかけてくれた。

すると、

「翔!!!!!」

すずの声がした。

「あんた何暗い顔してるの!あんなピッチング、翔らしくない!翔は野球が好きなんでしょ!楽しいんでしょ!今の翔は野球が楽しいって顔、全然してない!何もかも忘れて、自分がどれだけ野球が好きなのか、それだけ考えて投げてよ!投げる事を楽しんでるあなたの球なら、絶対に打たれることはないから!」

皆んなが俺を慰める中、

すずだけは強い口調で俺にそう言った。

俺はすずのおかげで我に返った。

そうだ、俺は何のために野球をしてるんだ?

ストライクを入れるため?

三振を取るため?

違うだろ?

俺はただ野球が好きなんだ!!

野球がやりたいだけなんだ!!


2回からは徐々に本来の俺が戻ってきた。

そうだ。

俺はこうやって楽しんでボールが投げたいだけなんだ!


それからはなんとか9回までを0に抑える事ができた。

だが楽しんで野球が出来たからって、

勝てる相手ではない。

表洋学園は徳川嵐のエースピッチャー相手に、

1点も返す事ができずにいた。

そして気づいたら俺たちは負けていた。

春の甲子園はほぼ確実と言われていた俺たちは

あっけなく一回戦で負けてしまった。

悔しい。情けない。

また俺のせいで、、、

俺たちは今回も徳川嵐に負けた。
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