リングノート〜必ず君を甲子園に連れて行く〜

<日野優佳SIDE>

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私は今日、翔くんに振られた。

本当に大好きだった。

好きで好きでおかしくなってしまうくらい、

どうしようもないくらい、

出会った瞬間から翔くんの事が好きだった。


高校1年の春、私はドキドキしながら

教室に入っていった。

少し早く着いてしまった私は誰もいない教室で、

窓から見える満開の桜と瑞々しく青い空を、

綺麗だなぁって眺めてた。

下のグラウンドを見ると

今日は入学式なのに、

野球部が練習しているのが見えた。

その中で誰よりも声を出して、

誰よりも一生懸命、

そして誰よりも楽しそうに

練習している野球部員に、

私はしばらくの間、

目が離せなかった。


さっきの人、何年生なんだろうな、

そう思いながら私は、

同じ中学から上がってきた

細井姫花と喋っていた。

すると少しだけ人の集まってきた教室で、

まだ名前も知らないクラスの男子が言った。

「おいお前、細井姫花って言うんか?そんなに太ってんのに?!確実にデブイ姫花だろ!おい!デブ姫!」

姫花をからかってきた。

どうしよう、、、

私、何か言わなきゃ。

でも何も言えなかった。

私はただ俯いていた。

「おい!!!お前さ!自分の腹鏡で見てから言えよな!人のことデブって言える体型じゃねーだろ!」

教室に入ってきてそう言ったのは、

さっき窓から見た野球部員だった。

すっごく背が高くて、

すっごくかっこよかった。

私はその瞬間、恋に落ちたんだ。

「で、でも、デブ姫ってセンス良くないっすか?」

体の大きい彼の事を、

先輩だと思ったその男子生徒が

恐る恐る敬語で聞く。

「全然良くねーだろ。細井姫花なんだったら細姫だろ!」

そう言って姫花のあだ名は細姫になった。

「ありがとうございます。」

姫花が言った。

「え、俺このクラスなんだけど、敬語やめてよな。」

そう横で2人が話していた。

同じクラスなんだ、、、

そう思っていると、

「俺、成瀬翔。おまえは細姫な!んで、隣のお前は?」

えっ、私?

緊張して声が出ない、、、

「わ、私は日野優佳です。」

「そっ、細姫と日野、これからよろしくな!」

これが私たちの出会いだった。

それからの学校生活は、

本当に幸せだった。

7人で屋上で昼ごはんを食べる時間が

私は大好きだった。

翔くんはすずとすごく仲が良かったから、

私の恋はきっと叶わないだろうな、

そう思っていたけど、

それでもいいと思ってた。

翔くんの近くにいられればそれで良かった。

でも翔くんの誕生日にプレゼントをあげた時、

翔くんが私に可愛いって言ってくれた。

私は嬉しくて嬉しくて、

つい告白してしまった。

絶対断られるだろうな、

そう思ってたのに、

翔くんは私と付き合ってくれる事になった。

夢みたいだった。

本当に幸せだった。

翔くんさえいてくればそれでいい、

そう思っていた。

はずなのに、、、

もっと翔くんに私のことを見てもらいたい。

翔くんに好きって言ってほしい。

野球よりも私を優先してほしい。

すずと話してほしくない。

どんどんそんな意地悪な欲が出てきちゃって、、、

そんな自分に悲しくなった。

ずっと誰かに話したかった。

そんな時に出会ったのが海斗くんだった。

「あいつ本当にいい奴なんだけどさ、鈍感で不器用だから、周りの事にも自分の事にも全然気づかないんだよな。日野さん嫌な思いはしてない?なんかあったら俺にいつでも相談していいからね。」

海斗くんはそう言ってくれて、

私はそれから翔くんの事を相談するようになった。

いつからだったかな。

私は、海斗くんが私の事を好きなことに気づいてた。

気づいてたけど、

寂しくて、、、

誰かに話を聞いて欲しかったから

その海斗くんの気持ちを

見て見ぬふりをしていた。


私は一人っ子で、

お父さんとお母さんは

仕事で家にいない日が多いから、

基本家に1人だった。

でも1人で家にいたら、

もっと翔くんの事を考えてしまって、

本当に寂しくて辛かった。

だからあの夜も、

1人でいたらおかしくなってしまいそうだったから、

海斗くんの気持ちに気づかないふりをして、

海斗くんは翔くんの親友だから大丈夫、

そう自分に言い聞かせて

私は海斗くんを家にあげてしまった。

あとで後悔しても遅かった。

私は翔くんにも海斗くんにも酷い事をした。


私はずるくて、

弱くて、

自分勝手で、

最低な女だ。


でも翔くんは優しいから

そんな私を許して、

付き合い続けてくれた。

本当に嬉しかった。

でも翔くんは相変わらず、

いつもすずのことを見ていて、

やっぱり私はすずには叶わないんだ、

そう思っていた。

翔くんは自分の気持ちに気がついていないから

いつか気がついた時に、

私は振られるんだろうな。

そうわかっていたけど、

1日でも長く翔くんの彼女でいたくて、

私は気がつかないふりをして

翔くんと付き合い続けていた。



「終わっちゃったな。。」

屋上の扉を閉めて、私はそうつぶやく。

堪えていた涙が一気に溢れてきて止まらなかった。

最後は絶対に笑顔で翔くんと別れるって決めていた。

翔くんには笑顔の私を覚えていて欲しかったから。

翔くん、最後まで優佳って呼んでくれなかったな。

最後まで私に好きって言ってくれなかったな。

そんな事を思ったらもっと涙が出てきた。

でも翔くんは正直で

絶対嘘をつけない人だから、、、

そんな翔くんだから

私は好きになったんだ。

私はこれからの人生、

翔くん以外の人を好きになれるのだろうか。

明日からの未来は真っ暗だし、

一生恋愛なんて出来ない気がするけど、

でもいつか私は、

翔くんより大好きになれる人を見つけて

絶対幸せになるんだ。

だから翔くん、

あなたも幸せになってね。

私はあなたのことが大好きでした。


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