離婚前提婚~冷徹ドクターが予想外に溺愛してきます~
「先生、お忙しいみたいですね」
「そうね……」

安藤さんは力なくうなずいた。

「あの、また薬とか体調で気になることがあったら、いつでも呼んでください」

世間話で足止めされるのはつらいけど、看護ならばする義務がある。

怪我の程度は軽かったとはいえ、事故に遭ったトラウマとか、ストレスとか、当事者にしかわからないこともあるだろう。

「そう言ってくれるだけで不安が和らぐわ」

力ない微笑みを私に向ける安藤さん。

私の心はチクリと痛む。

圭吾さんの結婚相手が私だと知ったら、安藤さんはどうなってしまうだろう。

「さあ、もう戻らないとね」
「あ」

気づけば、胸ポケットのPHSがブーブー唸っている。

病棟看護師のPHSが鳴るのは、内線かナースコールがかかっているときだ。

「すみません。失礼します」

私はPHS片手に急いで病室を飛び出た。

「はあ……」

なんだかなあ。患者さんに嘘をつくのって、気分よくないな。

嘘をつくとは違うか。騙す? でもないけど……今すぐ「私が笠原圭吾の妻です」ってカミングアウトしたほうがすっきりするかも。

でも、すっきりするのは私だけで、安藤さんじゃない。

先生から指示があるまで黙っておくしかないよね。

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