離婚前提婚~冷徹ドクターが予想外に溺愛してきます~
「お昼の担当の槇です。よろしくお願いします」

井上さんは私の顔を見てから名札をじっと見た。

「七海ちゃんか。よろしくね、七海ちゃん」

馴れ馴れしいおじさんだ。カルテを見ると、五十三歳と載っている。

「はい、お願いします。まずは体温を測ってください」

七海ちゃん呼びはスルーして、体温計を渡す。

井上さんは体温計を受け取るとき、するっと私の手を撫でていった。

ぞわりと鳥肌が立つ。

気持ち悪。

でもわざとじゃないかもしれないし。

嫌悪感を態度に出さないように気を付ける。

「はい」

ピピピと鳴った体温計を指先で受け取ろうとすると、それは井上さんの手からすり抜けて床に落ちてしまった。

「あら」

手を握られないように引きすぎたか。

仕方がないのでかがんで体温計を拾うと、頭に妙な重みを感じた。

「きれいな髪だな。やっぱり若い子の髪はつやがあるね。ねえ七海ちゃん、退院したら食事に行かない?」

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