プライベートレッスン
シャワーの音が消えて換気扇の音が強くなった。
「あのー、タオルはどこにありますか?」
彼女はユニットバスの扉を少し開けて言った。
「タオル?トイレの上の棚にあるよ」
「はーい。タオル使っていいですか?」
「いいよ。大事な主演女優に風邪を引かせるわけにもいかないからね」
「なんですかそれ?ウフフ。褒めてもなんにもあげませんよ」
換気扇の音はやがてドライヤーの音にかき消される。
「まるで恋人同士みたいだな」
脚本にすべてを捧げてきたから女のつき合いというものをよく知らないんだ。
何度か女性とつき合ってはみたものの脚本を書く事より熱くなれはしなかった。
才能がない、でも脚本を書くしか能がない男、三島光一。
「俺ってダサいよな?でも決して間違ってはないって言い切れるんだよ、理由はよくわかんないけど」
独り言も上手くなったもんだ。

「三島さんも入りますか?」
扉を開けて赤坂エリが出てきた。
「俺はいいよ、後で入るから」
「はーい」と返事をして冷蔵庫を開ける。
「なんか飲み物を飲んでいいですか?」
「うん、ついでにビールを取ってくれないかな?」
「はーい、大人のお薬ですね。私も飲んでいいですか?」
彼女はイタズラに聞いた。
「いいよ。でもピーターパンは子供しか遊ばないんだぜ。それでいいなら」
「三島さんはピーターパンじゃないんですか?」
そう言って隣に座りビールを俺の前に置いた。
「俺はオオカミだから」と言って缶を開ける、彼女もビールのプルタブを引いた。
「乾杯」と言って互いのビール缶をぶつけ合う。
彼女は「ゴクゴク」と喉を鳴らした後。
「マズイですね、大人の薬って」
彼女は嬉しそうに笑って俺にキスをした。

< 20 / 21 >

この作品をシェア

pagetop