筋肉フェチ聖女はゴリラ辺境伯と幸せを掴む
「ブレイズ様、お怒りにならないのですか?」
「むしろそんな事で安心した。……嫉妬に狂う案件じゃなくて良かった」

 最後は小声で聞き取れなかったが、とにかく怒りは収まったようなので安心する。

「浮気を疑われてしまうと思って……ごめんなさい」
「心配せずとも、ローズは毎日俺と一緒に寝ているだろう? 夜のアリバイは、毎晩寝不足の俺が証明してやれる」

 そうだった。私の部屋はブレイズ様が柱をへし折った関係で天井が落ち使用不可になってしまったので、私はブレイズ様の部屋で寝起きしている。「どうせあと三ヶ月もすれば結婚するのだから」とブレイズ様が仰ったからなのだが……。

「寝不足なのでしたらやっぱり部屋を分けた方がよろしいのでは? もしかして私、寝相悪いですか?」

 個人的には毎日腕枕をしてもらい上腕三頭筋を堪能しながら眠っているので幸せ一杯なのだが。それによってブレイズ様が寝不足になってしまうのなら話は別だ。

「いいや、これは俺自身の課題のようなモノで、これを耐え抜いてこそ漢。自己都合でローズの幸せを崩すわけにはいかない。一ヶ月頑張ったから、あと二ヶ月の辛抱だ……」

 どこか遠くを見つめるブレイズ様。本当に寝不足で疲れているようなので私は徐にその肩に触れ、少し首を伸ばすようにして頬に口付けた。

「ブレイズ様のおかげで毎晩幸せです。ありがとうございます」
「それは煽っているのか? ……駄目だ、やっぱりもう無理かもしれない」

 何が無理なのか問おうとした私の唇から言葉は発せられなかった。
 その後数分間。運悪く近くを通りかかってしまった者達は、顔を赤らめて走り去ったという。
< 30 / 53 >

この作品をシェア

pagetop