筋肉フェチ聖女はゴリラ辺境伯と幸せを掴む
「本当に心から愛していました。だからお別れのご挨拶が出来て良かっ……」
「『前方防御魔法!』」

 私の言葉をレオン様の怒声が掻き消す。しかし私の体がその命令に反応する前に、隣で私の肩を抱いていたはずのレオン様の体が後方上空へ吹き飛んだ。そして私の体は命令通り自分の前方に無意味な防御魔法を展開する。
 一瞬で距離を詰めてきたブレイズ様がその腕でレオン様を殴り飛ばしたのだと理解した時には、吹き飛んだレオン様はその空中からこちらに狙いを澄ませた多量の氷の矢を魔法で生成していた。

(私の魔法で、ダメージが無いんだ……!)

「ゴリラと戦うなんて初めてだが、所詮動物だろう? 碌な魔法も使えぬやつが、私に敵うと思うな」
「ブレイズ様!」

 咄嗟に駆け寄って、この身を盾に矢を受け止めようとしたが。

「ローズ、俺を信じてくれ。あんな奴、ブッ飛ばして一緒に帰ろう」
「え……!?」

 ブレイズ様は私の前に飛び出して。レオン様が射る氷の矢の雨の中へ――

「ブレイズ様!?」
「――フンッ!」

 氷の矢の雨の中に入ったはずなのだが、矢はゴリラの皮膚に刺さることはなかった。まるで弾かれたかのように反射して地面に刺さる。それどころか、そんな中庭園に設置してあるアンティーク調の鉄製街灯を引っこ抜いて……。

「嘘だろう……? おいローズ『私に回復魔法――』」

 ブレイズ様の動きが、私にかけられている服従魔法のスピードを凌駕していると理解したレオン様は、攻撃を喰らう前提で私に命令する。そして重力に従って地面に向かい落ち始めた所を……

「――ハッ!!」

 ゴリラパワーで全力でぶん投げられた鉄製の街灯が、レオン様にクリーンヒットした。そして王宮の壁に激突、まるで大砲でも打ち込まれたかのような大穴が開きパラパラと壁が崩れる。
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