筋肉フェチ聖女はゴリラ辺境伯と幸せを掴む
「くっ……あいつ、パワー馬鹿か」

 王宮の壁が崩れるのに巻き込まれて一緒に地面に叩きつけられたレオン様が地面から身を起こそうとしたその瞬間。その喉元に剣が突きつけられる。

「ハッ、ただのパワー馬鹿な辺境伯が剣なんて」
「お忘れかもしれないが、俺は五年間も騎士として戦場で剣を振ってきたのだが? むしろこっちが本来のスタイルだ」
「そうですよレオン様。ブレイズ様の手にかかれば……死にますよ」

 私はにっこり微笑みながらブレイズ様に寄り添って――その腕に強化魔法をかける。魔術師であるレオン様な分かるだろう。この柔らかな緑の光が、どれ程ブレイズ様の力を強化しているか。

「……ローズ、お前の目的は何だ」
「話が早くて助かります。私の目的は『今後一切私とブレイズ様に手を出さない事』をお約束頂くことです」

 だからこそ、わざわざぶっ飛ばしたレオン様を探しにきたのだ。そして魔術師である彼は気配で分かっているであろう。
 
「……服従魔法か。面白い、王子に向かってそんな魔法を向けるなんて。しかも下手くそだ」
「拒否されるのなら構いませんよ。ブレイズ様がこのまま剣で突くだけです。しかも足がつきにくいように、この剣はこの城の兵の物を拝借しました」

 見様見真似で初めて使う服従魔法。レオン様程上手く出来なくたって、私は今後関わらないと言質さえ取れればいい。
 私は今後ブレイズ様と幸せに暮らせるならそれでいいの。

「まさか従順だったローズに手を噛まれるなんてな……いいだろう。約束してやろう」

 レオン様の言葉に反応して私の手の中に、彼の髪色を模した黄色の歪な結晶が現れた。
 これでやっと安心してブレイズ様と帰れる。

「ローズ、こいつに防御魔法を張ってやれ」
「え?」

 ブレイズ様の予想外の言葉に抜けた声が出てしまう。

「俺はコイツを締め上げないと気が済まないんだ……ッ」
「は? 待て、私はもう関わらぬと約束しただろう!」
「刺されないだけマシだと思え! 俺のローズにあんな事をしやがって!!」
「何の話だ!?」

 (……あぁ、アドラ様に見せられた幻影を今だに根に持っているのね?)
 
 余りにも八つ当たり過ぎて少々可哀想だったので、割と強めにレオン様に防御魔法を張ってあげたのだが。私の服従魔法が効いているので、レオン様は反撃出来ずされるがままだ。

 ――そのうち防御魔法は粉粉に砕け散り、生身で再び王宮の壁に打ちつけられる展開になったのは……うん、レオン様の自業自得ということにしておこう。
< 51 / 53 >

この作品をシェア

pagetop