正反対な双子のそっくりな溺愛
「…ごめん、なさい」

謝ることしかできない。

新井くんの手が私の胸ぐらに伸びた。

「っ、ぃや」

制服を捕まれて引き寄せられる。

息が苦しい。

殴られるかもしれない。

「っ、」

他の人に気がついて貰いたいのに、喉が張り付いて声が出ない。

「おい、何やってんだよ」

誰かの手が、私の制服を掴む手をどけさせた。

「ふっ、」

途端に呼吸がしやすくなる。

涙でぼやける視界から見えるのは黒髪で背の高い男子。

制服をかなり着崩している。

ネクタイの色が深緑色なので3年生の先輩だ。

ちなみに私達1年生が臙脂色(えんじいろ)、2年生が竜胆色(りんどういろ)だ。

臙脂色は赤を濃くしたような色で、竜胆色は紫を濃くしたような色だ。

「っ!(かい)!」

その制服を着崩した先輩を見た新井くんは一目散に逃げていった。

「ありがとう、ございます」

まじまじと見つめた顔は人形のように整っていた。

切れ長で少しつっている目に高い鼻。

程よい厚みのある唇はつややかだ。

長い前髪が目にかかっている。

「…べつにいい」

その先輩はあっという間にどこかへ行ってしまった。
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