愛より深く奥底へ 〜救国の死神将軍は滅亡の王女を執愛する〜

***

 深夜の訪いに触れたあと、ヒルデブラントは口を閉じた。
 あとのことは彼女も知っているし、言うまでもないだろう。
 あのとき、ゼンナはひそやかに手に入れた鍵で扉を開けてくれた。
 ノックもなしに現れた彼に、エルシェは驚愕を見せた。
 ゼンナは部屋に入らなかった。黙って扉を閉めて、通路に待機した。
 ちょうど、窓からの澄んだ光がエルシェを照らし出していた。
 月の光を編んだような銀の髪に、星のような青い瞳。触れれば折れてしまいそうな細い肢体。日に当たっていない肌は白磁よりも白くなめらかだ。
 ヒルデブラントの胸に、どの女性にも感じたことのない熱情が湧き上がった。
 これが恋か、と彼は悟った。
 ただ彼女を救いたい。
 その一心で動いて来た。
 いつしかそれは深い恋情となり、彼の中に根差していたのだ。
 彼女に再会した今、ようやくそれを自覚した。
 直後に湧き上がる欲望に、戸惑った。
自分のものにしたい。
 どの男もまだ彼女には触れていない。
 その事実はさらに彼の胸をかきたてた。
 今なら、彼女の唯一にして一生の男になれるのかもしれない。
だが、それは許されない思いだ。
ヒルデブラントは自制し、彼女を見つめた。
 突然の訪問者に戸惑った彼女は、しばしの沈黙ののちに、彼に尋ねた。
「どなた?」
 彼女の戸惑う声は彼の理性を打ちのめした。
「覚えておられないのか」
 宝物のようだと言ってくれたこの目を。自分を。
「……すみません」
 素直に謝る彼女に、いったんは追いやったはずの激情が再燃した。
 戦場では命のやりとりをすることになる。
 暗殺も危険な任務ではあった。だが、ふいを突いて殺すだけの任務に比べ、常に殺意が満ちた場に身を置くならば、いつ死が彼をみまうとも限らない。
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