愛より深く奥底へ 〜救国の死神将軍は滅亡の王女を執愛する〜
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深夜の訪いに触れたあと、ヒルデブラントは口を閉じた。
あとのことは彼女も知っているし、言うまでもないだろう。
あのとき、ゼンナはひそやかに手に入れた鍵で扉を開けてくれた。
ノックもなしに現れた彼に、エルシェは驚愕を見せた。
ゼンナは部屋に入らなかった。黙って扉を閉めて、通路に待機した。
ちょうど、窓からの澄んだ光がエルシェを照らし出していた。
月の光を編んだような銀の髪に、星のような青い瞳。触れれば折れてしまいそうな細い肢体。日に当たっていない肌は白磁よりも白くなめらかだ。
ヒルデブラントの胸に、どの女性にも感じたことのない熱情が湧き上がった。
これが恋か、と彼は悟った。
ただ彼女を救いたい。
その一心で動いて来た。
いつしかそれは深い恋情となり、彼の中に根差していたのだ。
彼女に再会した今、ようやくそれを自覚した。
直後に湧き上がる欲望に、戸惑った。
自分のものにしたい。
どの男もまだ彼女には触れていない。
その事実はさらに彼の胸をかきたてた。
今なら、彼女の唯一にして一生の男になれるのかもしれない。
だが、それは許されない思いだ。
ヒルデブラントは自制し、彼女を見つめた。
突然の訪問者に戸惑った彼女は、しばしの沈黙ののちに、彼に尋ねた。
「どなた?」
彼女の戸惑う声は彼の理性を打ちのめした。
「覚えておられないのか」
宝物のようだと言ってくれたこの目を。自分を。
「……すみません」
素直に謝る彼女に、いったんは追いやったはずの激情が再燃した。
戦場では命のやりとりをすることになる。
暗殺も危険な任務ではあった。だが、ふいを突いて殺すだけの任務に比べ、常に殺意が満ちた場に身を置くならば、いつ死が彼をみまうとも限らない。