愛より深く奥底へ 〜救国の死神将軍は滅亡の王女を執愛する〜



 王都に戻ったヒルデブラントはすぐさま国王に謁見を求めた。
 長く待たされたのち、ようやく許された。
 謁見の間に通され、玉座の国王に跪拝(きはい)する。
 隣に二つ並ぶ一回り小さな玉座には王妃マデリエと王女ティルデがいた。
「休戦などと愚かなことを」
 ハリクスは第一声でそう言った。
「今は時期ではございませんでした。あちらの気が緩んだところを一気に叩く所存でございます」
 跪いたままヒルデブラントは答えた。内心では休戦のまま終了させる算段をしていた。
 ふん、とハリクスは鼻を鳴らした。
「一応は劣勢を覆した褒美をとらせねばならんな」
 ヒルデブラントの全身に緊張が走った。
 このときを待っていた。
「お願いがございます」
 ヒルデブラントはまっすぐにハリクスを見た。
「エルシェリーア殿下をお与えください」
「なんだと!」
 ハリクスは愕然と玉座から身を乗り出した。
「滅びの妖女を望むなど、予に含みがあってのことか!」
「陛下の憂いを払うためでございます。妖女が招く滅びを、私ならば抑えて見せましょう」
 機を間違えたのか。
 ヒルデブラントは焦った。
 だが、冷徹を装った。
 ハリクスは苛立ったように玉座のひじかけを指で叩く。
 しばらくの思案ののち、ニヤリと笑った。
「あの娘を……そうか」
 呟きに、ヒルデブラントは嫌な予感を禁じえなかった。
「まずはティスタールに完全なる勝利をおさめよ」
「そのときは必ずお与えください」
「考えておく」
 確約は得られなかった。
 とはいえこれでまたエルシェにまた一歩近づけた。
 ハリクスの含み笑いが気になったが、すぐにエルシェに危害を加えられることはないだろう。
 ヒルデブラントは息をついた。
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