愛より深く奥底へ 〜救国の死神将軍は滅亡の王女を執愛する〜
終章



 反乱は一夜で終了した。
 城を制圧し、正規軍には降伏を呼びかけた。
 ハリクスがいない今、兵たちは次々と投降した。
 奸臣は混乱に乗じて逃げようとしたが、レギーが指揮する反乱軍によって捕縛された。



 レギーが内政を取り仕切り、国は日ごとに落ち着きを取り戻して行った。
 ティスタール共和国がまっさきにランストン新政府を承認し、両国間で終戦協定が結ばれた。
 他国はそれに追随する形で新政府を承認した。
 (から)となった玉座を誰が埋めるのかは公にされなかった。
 反乱を指揮したレギーか、王を仕留めたヒルデブラントか。はたまた幽閉から救い出された王女殿下か。
 人々は口々に推測を語り合った。



 反乱から二週間が経過した。
 今日だ、とエルシェは思った。
 新月の今日は夜に月がない。だからきっと。
 マントを羽織り、燭台を持った。
 ほのかな明かりを頼りにただ一人で城内を歩き、ヒルデブラントの部屋を訪れる。
 ドアをノックすると、返事ののちにドアが内側に開いた。
「殿下、どうしてこちらに」
 返事をせず、エルシェはするりと部屋に入って扉を閉めた。
「若き女性が男の部屋を単身で訪れるなど、あってはなりません」
 ヒルデブラントが言う。
 エルシェは答えず、燭台をテーブルに置いて彼の部屋を見渡す。
 殺風景な部屋に荷物はほとんどなかった。
 長椅子の上にずた袋があり、乱雑に放り込まれた旅支度が見えた。
「出て行かれるおつもりですか」
「そうするべきです」
 ヒルデブラントの口調には迷いがない。
「嫌です」
 エルシェはマントをすとんと落とした。
 薄衣(うすぎぬ)に包まれた細い体が現れる。
 恥ずかしそうに胸の前で手を合わせ、エルシェは潤んだ瞳をヒルデブラントに向ける。
 彼は無言でマントを拾い、彼女にかけた。
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