イルカの見る夢
ふたりが約束した二週間後。
品川駅に直結する最先端のアクアリウム『marinofeden』の関係者限定のお披露目会が行われた。
テーマである『幻想』にぴったりの、夢のようでいて美しい世界が館内に広がっている。
ふだん水族館でみかける海の生物たちも、アクアリウムならではの光と音楽の演出で、妖艶に揺らめいていた。
<約五年に及ぶ我々の計画が、こうして成功して嬉しく思います。今日は楽しんで頂けたら嬉しいです>
フォーマルドレスに身を包んだ真凛は髪をシニヨンでまとめ、夫の斗李と一緒にお披露目会に参加した。
夫の挨拶を遠くから眺めながら、ほう……と恍惚の息を吐く。
(この空間に、斗李さんに……もう酔ってしまいそうだわ)
それは彼女だけでなく、参加している誰もが少なからず思っていた。
旧財閥の御曹司の斗李は、日本を代表する電気機器メーカーの息子であり、子会社の自社も大成功を収めている。
その肩書に加え、彼は誰もが魅了されてしまうほどの容姿を持っているのだから、世の中は不平等としか思えない。
絶世の美女とうたわれた日本の女優の祖母の血が、隔世遺伝し斗李に投影されたようだ。
業界に留まらず世間からの視線もいつも熱い。斗李の一挙手一投足を逃すまいと、メディア関係者も何社かいる。
真凛は斗李の妻として一時的に注目を浴びたが、桃李の仕事の邪魔をしたくなく、なるべく大っぴらに表にでないと夫に懇願していた。