イルカの見る夢
斗李の挨拶が済み、自由に館内を回る時間が設けられる。
真凛は斗李にお願いされ、彼と一緒に取引先の社長などへの挨拶をこなしていった。
「本当に君にぴったりの、愛らしい奥様だ。今度我が家のパーティにふたりで来てくれないか」
「光栄です。ぜひ」
真凛は人見知りだが、一興懸命斗李の妻としての役割を果たしてゆく。
斗李は彼女の普段と変わらない様子に安堵しながらも、平静を保った顔で経営者として言葉を巧みに交わした。
その後、イベントは無事終わったが、アクアリウムの代表である斗李は多忙だ。
「真凛、少し取材に対応しなくちゃならなくて。館長とバーで話して待っていてくれないか。とても気さくな女性だから、気兼ねないと思うよ」
「そうなんですね。では、そちらでお待ちしております」
「ありがとう」
真凛は少し心細かったが、常に誰かに求められている夫を誇らしい気持ちで見送る。
館内にはバーがあり、夜間の営業時間のみアルコールが提供される。
バーには大きな水槽があり、それを囲むようにしてカウンター席が設置されている。
客までも作品の一部になってしまうような手の込んだ造りだ。
「奥様、初めまして。館長の東(あずま)です」
その場に立っていると、どこからともなく、小柄で眼鏡をかけたボブヘアの女性が真凛の傍に近寄ってきた。
人柄の良さが伝わる彼女の笑顔を見て、真凛は頬を緩める。
「東さん、初めまして。夫から聞いています。少しバーで待っていてほしいと」
「ええ、私がご案内いたしますわ」