イルカの見る夢
真凛は東と他愛のない会話を交わしながら、館内の中間地点にあるバーに向かって歩き出した。
「少し驚いたんですよ。社長があんなふうに奥様に優しく笑うから」
「そうなんですか……?」
真凛はいつも斗李から温かい眼差しと、甘い笑みしか向けられたことがないから激しく動揺した。
東の話によると、建設作業中の斗李はとても厳しい印象だったようで、笑顔もほとんど見せなかったのだという。
「でも私、オンとオフがはっきりされている方の方が素敵だと思いますわ。だから仕事をあそこまで成功されているのだと思うし」
「ありがとうございます」
東にそう言われて、真凛は少し冷静になった。
それはそうだ。あんな大きな会社をまとめる人が、誰にでも優しくというのは難しいだろう。
その都度誤った決断もできないのだから、神経を張り巡らせるのも理解できる。
すると東は思い出したように「あ……」と呟きながら、その場に足を止めた。
「まだ時間はありますし、せっかくだから未公開のエリアにご案内しましょうか?」
「え?」
東の提案に、どきっと鼓動が鳴る。
斗李の存在が脳裏に過った。いくら妻といえど、未公開エリアなど見てもいいものなのだろうか。
そう正直に真凛が伝えると、東はふっと朗らかな笑みを浮かべた。
「大丈夫でしょう。奥のエリアには美しいイルカがいるんですの、ぜひご覧になってください」