イルカの見る夢
「は、はい……」
真凛は心に抱いた一抹の不安を拭い切れなぬまま、東の後をついてゆく。
(斗李さん、ごめんなさい。でも私……見てみたいわ)
久しぶりに抱いた、願望。
斗李への後ろめたさと、未知の世界を見てみたいという好奇心が交差する。
そこで初めて、彼女は自分の意志というものをしばらく持っていなかったことに気づく。
何をするにも、彼の許可を得て彼の表情を伺って、行動のすべてを決めてきた。
依存しているという自覚があったが、これでは斗李の操り人形のようだと思われても仕方ないだろう。
東はある場所で足を止め、扉の取っ手を引く。取っ手までも黒で塗り潰されているため、ぱっと見これが扉だとは誰も気づかない造りだ。
まるで秘密の部屋だと真凛は思った。罪悪感が込み上げるが、目の前の朗らかな東の笑顔に押され、部屋の中へと足を踏み入れる。
いないはずの斗李の視線をどこかで感じながら、彼女は必死で〝気のせいだ〟と言い聞かせた。
「わ……すごいわ……」
天井にまで続く、大きな筒型の水槽の中にイルカが一体滑らかな動きで泳いでいる。
部屋の奥まで幾つもの筒形の水槽が続いているが、ところどころ何も入っていない水槽もあるようだった。
それぞれの水槽は鮮やかな照明で彩られており、気泡と相まってまるで宝石箱のようだ。
「キュゥーキュゥー」
どこからともなく、イルカの鳴き声が聞こえ真凛は足を止めた。
「この声……」
「キュゥーキュゥー!」
真凛へ訴えかけるように、イルカの鳴き声が脳裏に響き渡った。
突然、激しい頭痛が襲う。真凛は頭を抱え、一刻も早くこの痛みが消えることを願う。
「はぁ、はぁっ……この声、ルビー……?」