イルカの見る夢
 斗李は目を開けると、穏やかな眼差しを真凛に向けた。

 「marin of eden(マリンオブエデン)」

 「ま、マリンって」

 「そうだよ。僕のこだわりが詰まったアクアリウムだからね。真凛の名前は絶対に入れたかったんだ」

 斗李は驚く彼女の額に、淡いキスを降らせる。

 真凛の目の奥が熱くなる。夫が数年という長い年月をかけて計画していたアクアリウムの自分が一部になれたような気がして。

 「……嬉しい。一生もののプレゼントをもらった気分です。斗李さん、本当にありがとうございます」

 斗李に向けられる深い愛を日々感じていたが、ここまでスケールが大きいと自分が彼へ与えている愛なんてまだまだちっぽけなような気がして、真凛は少し寂しい気持ちにもなった。

 「斗李さん、私、アクアリウムに行ってみたいです」

 「えっ……」

 真凛の提案に、斗李は動きを止めた。柔らかな笑みは消え、代わりに心配そうに眉根を寄せる。

 真凛は事故に遭ってから水族館やアクアリウムに一度も訪れていない。

 事故と関連づくような場所にゆき激しい頭痛に見舞われてしまうのではないか……という恐れと、

 記憶を思い出したとき、心身のバランスを崩してしまうんじゃないか、という漠然とした不安があったからだ。

 真凛は今が幸せなので、余計に怖い。

 それは斗李も同じようで、彼女にとってつらい状況になるくらいなら行かない方がいいという考えだった。

 しかし交際期間を含めて現在までの四年間、斗李が心血を注ぎアクアリウムの建設に携わっている姿を、真凛は誰よりも近くで見てきた。

 怖さよりも、彼の最高傑作を妻として見るべきだという、ある種使命感のようなものを感じているのだ。

 「無理はしないでほしい。写真や動画もたくさん撮る予定もあるし、わざわざ足を運ばなくたって……」

 「斗李さんの想いが詰まったアクアリウムをこの目で見たいんです。どうしても」
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