エリート弁護士の執着愛
 ***

 翌週の月曜日。
 仕事を終えた私がビルを出ると、見知った人影が近づいてくる。
 どうしてここに。その言葉は声にならず、唇だけが震えるように動いた。

「お前さ、この間、実家に帰ってきてたんだろ。なんで俺んとこに顔出さなかったんだよ」
「……太一」

 太一に会ったのは、一ヶ月ぶりだ。
 先月、私の顔を見て「どちらさまですか」と言った太一は、妙に親しげな顔をして私の前に立った。「お前とこれ以上関わらなくて済む」私の前でそう言った彼と同一人物とはとても思えない。
 見覚えのあるその顔は、中学、高校、大学時代に時折、私に向けてくれたものだ。彼が私に親切にしてくれていたのはお為ごかしでしかなかったのだと唐突に理解した。

「お前さ、こんな大手で働いてるってことは、弁護士の知り合いくらいいるだろ?」
「知り合い? それは、もちろんいるけど」
「その人に頼んでさ、うちの親父を助けるように頼んでくれないか? お前んとこの親父に金を貸してくれるように頼んだのに、なんかの手続きをするなら事務所を通せとか頭の固いことしか言わねぇんだと。知り合いのよしみで、金くらい出してくれてもいいのになぁ。お前はそんなこと言わないだろ? 大事な幼馴染みの頼みなんだから。な?」

 太一の言葉に呆れ果て、深々としたため息が漏れた。

(なに言ってんの、この人……)

 民事再生法の手続きをするには、裁判所の管理下で再生計画案を策定しなければならない。事業譲渡し再生させるための手続きなどをすべて無料で引き受けられるはずがない。
 もしくは、助けてと言うのは、自分の立場を守るために会社を助けてほしいと言うことだろうか。どちらにしても非常識だが。
 私が二の句がつけないでいると、太一がさらに言葉を続けた。

「今のお前なら付き合ってやってもいいからさ。俺を好きだとか言ってたよな? お前、俺のために痩せたんだろ?」

 絶句した私の反応を肯定と取ったのか、太一の腕が私の肩に回される。太一の体臭と体温を感じると、頭が真っ赤に染まるほどの怒りと不快感が沸き立ち、私は荒く息をついた。

「離してっ!」
「なんだよ、焦らすなぁ。じゃあ、じっくり話せるようにラブホでも行くか。それにしても、まさかあのブタ実がここまで綺麗になるとは思わなかったよ。今のお前なら抱ける気がする。お前も俺に抱れたかったんだろ?」
「そんなわけないでしょ! 好きな人がいるから、あなたとなんて絶対に無理!」

 太一の手を退けると、彼は太い眉を不機嫌に寄せて、私を見据えた。

「この間、俺に会いに来たくせに?」

 そう指摘されて、頬に熱が走る。たしかにあのときまで私は太一に執着していた。恋心ではなかったとしても、彼に綺麗になった姿を見せたいと思ったのは本当だ。
 私を振った太一を見返したかった。後悔させたかった。今、それが叶っているはずなのに、気持ちはまったくすっきりしない。

「私を振ったことを後悔させたかっただけ。でも、今わかった。私に見る目がなかっただけだ、これ」
「は? なに訳のわからないことを言ってんだ。ほら、行くぞ」

 腕を引かれそうになった瞬間、背後から逞しい身体に抱き締められた。ふわりと香る匂いに誰が来てくれたかを知り、安堵で力が抜けそうになる。

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