追放された薬師は、辺境の地で騎士団長に愛でられる
そんななか、
「アン!!」
扉が再び開き、少し焦った様子のジョーが顔を出す。そして私を見つけた瞬間、ホッとした表情になった。
「探した、アン」
そのまま私に歩み寄り……ぎゅっと抱きしめられる。 ジョーの広い胸板に頬を付け、その大きな体に胸が張り裂けそうになる。甘い気持ちと切ない気持ちが入り混じった。
「アン……どこかに行ってしまったのかと思った」
消えそうなその声に、胸のどきどきが止まらない。そんなに切ない声で言わないで。ますます離れられなくなるのだから。
ふと、外が騒がしくなった。ジョーは私の体を離し、一瞬外を見る。そして私を、掃除道具箱の中に慌てて押し入れる。それと扉が開くのは同時だった。
暗い掃除道具箱の中で必死に聞き耳を立てた。甘い気分も吹っ飛んで、今や恐怖で震えている。
「じょ……ジョセフ様……なぜここに?」
男性の裏返ったような震える声と、鎧が立てるカシャンカシャンという音が響く。それで、さきほどの黒い騎士が治療院にも尋ねてきたことが分かった。
「お前ら、言ったよな?」
ジョーの怒りに満ちた声が聞こえてくる。
「この街に来た薬師は、王宮薬師などではない。ただの平民の女だ。
これ以上の地を混乱させるならば、地下牢へ入ってもらうか、ここで死んでもらう」
暗闇の中で響くジョーの声に、胸をドキドキ言わせる私。周りに人もいるのだろう、ざわざわする群衆に向かって、ジョーは告げた。
「皆の者、この黒い鎧の男たちは、オストワル辺境伯領の平和を乱すものだ。
こいつらの話は信用しないこと!」
それで、群衆が「帰れ!」なんて叫び始める。しまいには、投げられた石が鎧に当たる乾いた音まで響いてきた。予想以上にジョーの影響力はすごい。そして、私とは不釣り合いだという事実を、まざまざと見せつけられた。
ジョーはそんなにすごい人なのに、一体どうしてここまで私を庇うのだろう。下手したら、ジョーの名誉に関わる話かもしれないのに。