どんな君でも愛してる

加速する気持ち

 家に戻ると彼のことを思い出して何度もお風呂場に映る自分の唇を触った。

『隠していることはいずれ教えてもらうから、今は考えなくていい。それに、求めすぎないから安心しろ』

 彼のくれたこの言葉が魔法のように身体に染み渡った。でも、私には異性を避ける理由がある。それがこの傷だ。

 目の前の鏡には胸の下あたりから手術痕がある。15センチくらい。小さいときに身体が弱く、肺の手術をした。その跡だ。

 カテーテルではできない手術で、リスクを抑えるため、命を優先するため、女の子なのに跡が残るその手術に両親は同意した。

 でもそのせいで、物心つくと林間学校、修学旅行、友達との旅行や温泉など行くのがつらくて、聞かれて答えるのもだんだんつらくなってきた。

 一番は大学に入ってからだった。友達も皆彼氏ができて、まあいわゆるそういう体験をする。私にはどうしてもそれができなかった。相手にがっかりされるのがわかっていたからだ。
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