EASY GAME-ダメ男製造機と完璧上司の恋愛イニシアチブ争奪戦ー
「まあ、ひとまず、落ち着くまではいてもいいから――と言いたいところだけど」
 ようやく落ち着き、コーヒーを飲み干すと、少々気まずそうに舞子は続けた。
「……よりによって、今週末から、アキと同棲開始予定なんだよね、アタシ。結構前に言ったから、忘れてるかもしれないけどさ」
「――あ」
 そう言えば。
 舞子は、就職してからできた彼氏――飯山(いいやま)秋成(あきなり)さんと、もう五年も続いているのだ。
「そっか。そうだったよね、ゴメン。すぐに次のトコ探すから……」
「待て待て、美里」
 そう言って、舞子は、あせって立ち上がろうとするあたしを止める。
「でも、お邪魔じゃない」
「良いわよ、アキには、事情話しておくから。何なら、延期しても……」
「ダメだってば‼」
 あたしは、今にもスマホに手を伸ばしそうな舞子を止めた。
 こんな事情で、万が一にも二人の関係が悪くなったら、申し訳なさすぎるのに。
 だが、舞子は引かずに聞き返してくる。
「じゃあ、アンタ、当てでもある訳?」
「――だ、大丈夫。……会社にも独身寮あるし、借り上げの社宅もあるから……どこかには空きがあると思う」
 あたしがそう告げると、舞子は少しの間停止して、渋々うなづいた。
「……まあ、担当部署のアンタがそう言うんなら――。でも、ホントに、何とかなるのよね?」
 ジロリと、その童顔に似合わない視線の強さに、一瞬ひるんでしまうが、すぐにうなづいた。
「――大丈夫」
 ――……だと、思いたい、とは、続けられなかったけれど。


 それから、仕事に向かう舞子を見送り、あたしは、残された部屋に一人たたずむ。
 休日、朝。
 平日のような喧騒も聞こえない。

 ――ほら、早く起きて。朝ごはんできてるから。

 ――洗濯機回すから、着替えてよ。

 ――お昼ご飯、何食べたい?

 先週までは、そんな会話が当然のようになされていたのに――今は、一人だ。

 そう再認識すると、また、涙があふれてきた。

「――……もう、やだ……」

 ――……一体、何がいけなかったの?
 ――……好きな人のために、何かしてあげるのが、そんなにいけない事だったの?


 ――……あたしは、必要とされていたいだけなのに……。


 そんな思いは、いつまでもグルグルと、あたしの頭の中を回っていた。
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