EASY GAME-ダメ男製造機と完璧上司の恋愛イニシアチブ争奪戦ー
 翌日、月曜日。
 舞子の部屋からは、会社までバスの方が早い。
 一番近いバス停の時刻表をネットでチェックして、あたしはバッグを持って、心配そうに見てくる舞子に笑って返した。
「――行ってくるね。夕飯、あたしが作るからさ、リクエスト、メッセージしておいて」
「……いいわよ、気にしなくて」
「そういう訳にはいかないでしょ。置いてもらってるんだから」
「いつものコトじゃない」
 苦笑いで返す舞子に、あたしは首を振る。
「いいから。じゃあ、合い鍵借りるね」
「――……いってらっしゃい」
 今日は店休日の舞子は、いつもなら、あと一時間は寝ているはずだったが、あたしに合わせて起きたせいで、若干ぼうっとしている。
 ドアを閉め、アパートの階段を三階分下りる。
 そこから三分ほど歩くと、すぐに会社方面行きのバス停が見えた。
 部屋を出てくる時に、貴重品と最低限の着替え、預貯金関係は全部持って来たのだから、生活自体に心配は無い。
 あたしは、バス待ちの列の最後尾に並ぶと、スマホを見やる。

 ――アイツからのメッセージは、何も無い。

 そりゃあ、そうだ。
 アイツは振った立場だ。
 今頃、浮気相手と一緒に、あの部屋に居座っているんだろう。

 そう思うと腹が立ってくるが、今さら、どうしてみようもない。
 ――早目に荷物を全部引き上げて――ああ、そうだ、部屋を先に決めないと。
 あたしは、そんな事をつらつらと思いながら、やって来たバスに乗り込んだ。


 終点二つ手前。
 バスに揺られて、約三十分。
 徐々に減っていく乗客を見やりながら、あたしは、ようやく会社にたどり着いた。
 停留所の名称が呼ばれ、降車ボタンを押す。
 どうやら、降りるのは、あたしだけのようだ。
 それもそのはず。
 あたしの勤務先――鈴原冷食株式会社は、まあまあの敷地面積。
 本社と、すぐ隣の工場、駐車場や、その他施設を合わせると、某ドーム五個分くらいはあるらしい。
 その本社ビルのすぐ斜め前に、バスの停留所はあるが、降りるのは会社関係者くらいだ。
 ――何せ、名称が”鈴原冷食前”なのだから。
 そして、あたしを降ろし、終点まで数人を運ぶため、バスは発車した。
 それを見送り、二車線道路の横断歩道を渡ると、会社のだだっ広い敷地内を進む。
 数分歩き、目の前に現れる、建て替えたばかりの五階建てのビル。
 その正面玄関から脇にそれたところにある従業員出入口で、社員カードをかざして中に入る。
 就業時刻十五分前、まあまあの人ごみだ。
 数年前に大手企業と提携してから、社員の数も増えたので、高卒で勤続十年――まあまあ古株のあたしには、少々居心地が悪くなった。
 以前なら、ロッカールームに入るのに、順番待ちなどしなくても良かった。
 でも、今は、何だか気を遣ってしまう。

 ――みんなに罪は無いけどさ。

 一階の女子ロッカーに荷物を置き、貴重品を持ってエレベーターで三階まで上がる。
 あたしのいる総務部は、三階すべてを使用。
 手前に一課、あたしがいる二課はその奥。
 全従業員が数千人規模になったせいか、総務部も、最近になって人員が増やされた。

 総務部第二課、福利厚生担当。

 ――それが、あたし、白山(しろやま)美里だ。
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