婚約者様、ごきげんよう。浮気相手との結婚を心より祝福します
 ※※※

 そんな幼い頃に、眠れる獅子を起こしていたなんて知らないエレトーンは――
 数日経った放課後。いつものよう生徒会室に来ていたが、なぜかそこにいるアレックスと笑顔で話すマイラインを若干引き気味に見ていた。
 アラートがいないのはいつも通りであるが、アラートの代わりにアレックスがいるのは想定外だった。しかも、マイラインと仲よさげにしているから、なにか企んでいるのではと疑いの目を向けている。

「アレックス殿下が手伝ってくれると、あっという間に終わりますわね」

 学校行事のことなのでそんなに難しいことはないが、言われるまでもなく瞬時に理解し、次々と書類を片付けていくその判断力と決断力に、エレトーンは驚き感服していた。
 マイラインも、感嘆していたほどである。

「お褒めに与り光栄にございます」
「まぁ、アレックス殿下ったら」

 茶目っ気たっぷりにアレックスが頭を下げれば、マイラインは楽しそうに笑った。
 アラートだったら、こうはいかない。言葉遊びも冗談も通じない以前に、マイラインのこともエレトーン同様に嫌っているからだ。

「従姉弟なのですから、殿下は抜きで」
「では、私のこともマイラインと」

 そんなに仲がよかったように思えなかったふたりが、いつの間にか親しくなっていることに、エレトーンは驚いていた。
 エレトーンの話題で盛り上がり、そこから打ち解けたことをエレトーンが知る由もなく、不審な表情さえ浮かぶ。

「エレトーン。アラート殿下なんて捨てて、アレックスと結婚すればよろしいのに」
「は?」

 そんな顔で見ていたら唐突にマイラインがそう言ってきたので、エレトーンは声が裏返るところだった。
 アラートとの結婚は、王命ではないが、王妃からの厳命だ。それをこちらから一方的に解消できるわけがない。それはマイラインもわかっているはずなのに驚きだ。

「女に現を抜かすバカ王子より、アレックスの方がいいですわ」

 まぁ、一理あるどころかその通りだ。
 愛だ恋だと情がなくとも、夫となる人とは信頼関係で結ばれていたい。
 自分がやりたくない仕事を婚約者に押しつけて、女遊びする男なん絶対に御免だ。
 自分がアレックスと結婚するかはさておき、遊び呆けているアラートよりは国のためにもよさそうである。だが、残念ながらエレトーンに相手を選ぶ権利はない。

「できるものなら、変更願いたいですわね」

 アラートに疲れていたエレトーンは、思わずぼやいてしまった。
 この言葉に他意はない。ただ、アラートよりアレックスの方がいいと同意したにすぎない。
 いつもならサッと流していただろうが、この時のエレトーンは心底疲れていた。いつも通りアラートのやらない仕事を代理でこなし、生徒会の引き継ぎ資料の作成。卒業を前にいつも以上に雑務が増えていたのだ。
 それに加えて、自分の将来のこと考えると、さすがのエレトーンも余裕がない。
 だから、この時にマイラインとアレックスが、意味ありげに目配せしていたことに……


ましてや、彼らが裏で色々としていたなんて、まったく気付かなかったのであった。

しかし、そのおかげでエレトーンの未来が明るく……楽しいものに変わったと知るのは、近い未来の話。

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