婚約破棄したら『悪役令嬢』から『事故物件令嬢』になりました

20 貴方が語る貴方の事情

 復讐なんて物騒な事を言い出したのに、ライオネルの声からはそんな暗い邪なものは感じられません。


「俺が貴族学園の卒業前に、急に留学したのを覚えてるよね?
 あれは論文盗作疑惑で、学園を停学になったからだ」

「貴方が盗作なんて……」

「勿論、俺は盗作なんてしていないけれど、信頼していたケイレヴに……
 それこそ嵌められた」


 その論文テーマは領地経営における経済状況の変化による税率変動なんとか……とか。
 説明されても私には何ですか?それ、な論文ね。

 商売で言うなら、市場調査して需要によって価格を変える、みたいなもの?



 私がそう言えば、ライオネルは笑顔になって黙っている。
 まぁ、もっと複雑なのね、失礼致しました。



「前年度ケイレヴが提出した論文ありきで、視点を変えて……
 俺の中では当時ケイレヴの手伝いで下調べをしていたし、次年度の自分の論文はこのテーマを違うアプローチでやりたい、と彼にも言ってて。
 いいんじゃないか、とケイレヴからの言質も取っていたから、了承されていると思っていた」

「ケイレヴ様の論文のお手伝いをしている時から、来年は同じテーマで書くのを、本人から認められていたのね?」


 領地経営科では先人の出した論文を下敷きにして、新しい視点で論じたものは提出可能なのだそうです。



「同じテーマを選んだ場合には、必ずその旨を参考文献として明記して、それに伴う謝辞も添えて提出することになっていて……」


 今から思うと、見方を変えたらもっといいものが書けるかも、とケイレヴと同じテーマなど、選ぶべきではなかったんだ、とライオネルは続けました。

 前年に下調べをしていたから、新しい調査結果や資料を加えてそれ程苦労せずに完成させたのは、提出期限よりもずっと前のことだった。


 良かったら目を通させて欲しい、とケイレヴ様から言われたライオネルは喜んだ。


 既に先輩は財務省で働いている。
 現場を知る人の意見を貰えたら、それも加えてより完璧に仕上げられるだろう、と。

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