私の心の薬箱~痛む胸を治してくれたのは、鬼畜上司のわかりづらい溺愛でした~

「うぅ、すみません主任。ご迷惑おかけして……」
「いや。お前がこんなに酒に強いとは、想定外だった。おかげでそれを口実に連れ出す予定が遅れてしまったな」

 え、まさか私の酔い待ちだった!?
 やっぱりこの人、鬼畜だ……!!

「着いたな」
 タクシーが旅館に到着し、扉が開いて主任が降りると、私の方へ手が差し出される。
「ほら、手」
「~~~~っ」
 こういうところ、本当にずるいと思う。

 さっきまでのチクチクもやもやしたものが消えていく。
 代わりに心を満たすのは、温かい感情。

 ──あぁ、やっぱり。
 気づきたくなかったけれど、気づいてしまった。

 私は──主任に惹かれてる。

 駄目だ。

 私と主任じゃ釣り合わない。

 第一、こんな、顔も良くて何でもできてスパダリ属性の男性が、私のこと好きなってくれるわけがない。
 こんな、罰ゲームで告白されるような女なんか……。

 この気持ちは、もう一度自分の中の奥深くに沈めてしまおう。

 気づかれないように。

 今まで通り。

 真面目に仕事をこなしていこう。

 せめて迷惑にならないようにひっそりと、傍で仕事を支えていく。

 それだけで、十分じゃないか。

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