私の心の薬箱~痛む胸を治してくれたのは、鬼畜上司のわかりづらい溺愛でした~

 先ほどまでよりも大きなどよめきが会場を埋め尽くす。

 社長は泉社長。
 そして雪兎さんは和泉。
 同じ『いずみ』でも漢字が違うから誰も何も気づかなかった。
 それに社長はおっとりしていていつも笑顔の癒し系。
 対して雪兎さんは眉間に皺がトレードマークな鬼上司。
 血の繋がりがあるだなんて、たとえ今この場で発表されても信じ切ることができないほどには正反対なのだ。

 すると紹介された壇上の雪兎さんと視線がぶつかって、雪兎さんの口元が弧を描いた。

「ご紹介にあずかりました。和泉雪兎です。今まで名字の漢字を変えてこちらで働き、主任業務の他に、会社を継ぐために会社全体の仕事も進行して、この時までの土台を作ってきました。まだ年若くご心配はあるかもしれませんが、これまでの私の仕事ぶりが、少しは安心材料になってくれたらと思います。至らぬ点もあるかもしれませんが、これまで以上にこの会社を盛り上げていきたいと思いますので、皆様、お力添えをよろしくおねがいいたします」

 そう言って頭を下げた雪兎さんに、パラパラと拍手が上がって、一人、また一人と拍手が重なり、やがて会場は拍手の渦に呑まれた。

 確かに社長というには雪兎さんが若い。
 だけど雪兎さんが言ったように、これまでの彼の仕事ぶり、姿勢が、私たちには良い安心材料になる。
 仕事に真面目に向き合い、誰よりも率先して仕事をこなす雪兎さんを皆知っているから、不安なんて一つもない。
 彼ならやっていける。
 誰もがそう信じているし、それは雪兎さんがこれまで懸命に作り上げてきた、大きな土台なんだと感じた。
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