私の心の薬箱~痛む胸を治してくれたのは、鬼畜上司のわかりづらい溺愛でした~
「それともうひとつ……。俺と皆川由紀が付き合っているとかバカげた噂が広まっているらしいが、事実無根であることを伝えさせてもらう。根拠のない要らぬ噂を流さぬように」
心底嫌そうに伝えられたその言葉に、壇上でうんうんと、これまた心底嫌そうに首を縦に振る皆川さん。
事情を知る私はそれがなんだかおもしろくて、思わず苦笑いした。
「え!? ほんと!? よかったー」
「りん、アタックしちゃいなよ」
「いいなー、次期社長夫人かぁー」
「えーやだぁ、気が早いんだからー」
こそこそと聞こえてくるのは、さっきまで雪兎さんに付きまとっていた佐倉さん達の声。
そもそも佐倉さんには優悟君がいるだろうに。
優悟君も優悟君で私に付きまとって、一体何なんだ、このカップル。
不快だ。
……とても。
そしてふと、壇上の雪兎さんと目が合うと、再び雪兎さんの口元が弧を描いた。
今度はとても、そう、悪い顔で──。
え? 何?
「──水無瀬海月」
「!?」
私の名前が、会場中にはっきりと響き渡った。