【更新】雇われ妻ですが冷徹騎士団長から無自覚に溺愛されています
(でももう、いいの……)

 ランドルフと出会って二年、リーゼはずっと彼に淡い恋心を抱いてきた。
 
 だがそれは叶わぬ恋。
 そもそも猫の額ほどの領地しかなく、貧困に喘ぐ没落寸前の子爵家の娘であるリーゼは、名門フォスター伯爵家の次期当主の結婚相手になどなり得ない。
 
 それに、ただ後ろで結んでいるだけのパッとしないくすんだ金髪に、この国にごまんといる榛色の瞳を持つ、とにかく地味尽くしのリーゼでは、彼の心を振り向かせることもできなかった。
 リーゼの恋はもう、詰んでいるのだ。

 最近では、叶うはずのない片想いに身を焦がす自分を惨めにすら思っていた。
 彼の言動に心がときめく度に、分不相応な想いを抱いていることを自覚して、ほろ苦さが込み上げるほど。
 夢を見るのも大概にしようと自分に言い聞かせても、気がつけば彼のことを考えていて。自分ではどうしようもなかった。

 やっとこの恋にピリオドを打てる。心臓をグシャグシャに握りつぶされる痛みと、ある種の清々しさが混ぜこぜになった複雑な心境のまま、リーゼはその場に立って彼の続く言葉を待っていた。
 
 ふと、顔を上げたランドルフと視線がかち合う。
 なんだか妙に改まった顔をしている。なぜだろう。
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