【更新】雇われ妻ですが冷徹騎士団長から無自覚に溺愛されています
 以前、契約結婚を題材とした小説を読んだことがある。その小説では、利害の一致で結婚をし、仮初の夫婦を演じていた二人が、最終的には本物の愛を誓うのだが……それは言わないでおく。

 リーゼとしてはかなりの妙案だと思ったのだが、肝心のランドルフは釈然としない様子で腕を組み、低く唸っている。

「そんな馬鹿げた提案に乗る奴などいないだろう」
「もちろん万人が頷くかと言われたらそうではないですが……受け入れるとすれば、物事を合理的に判断できる聡明な女性なはずです。団長の周囲にいらっしゃるような、感情的になりがちな女性は嫌厭されると思うので、むしろ好都合ではないでしょうか?」
「確かに……それもそうか……」

 彼の中で腑に落ちた部分があったのだろう。顎に手を当てて考え込み始めるランドルフを、リーゼは何とも言えない気持ちで見つめた。

 これでランドルフが結婚を決断したら、遠くない未来、彼の隣に立つ女性が現れるのだ。
 うわべだけの夫婦だとしても、ランドルフに寄り添う女性の姿を想像すると、胸が締め付けられるように痛んだ。
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