【更新】雇われ妻ですが冷徹騎士団長から無自覚に溺愛されています
「ときにスターリング」
「は、はい」
「そう言う君は結婚しないのか?」
「……ぅぐっ」

 痛いところを突かれて、リーゼの口から奇妙な呻き声が漏れる。
 リーゼ・スターリング、二十三歳。残念ながらリーゼ自身もまた、完璧なる行き遅れであった。正直、ランドルフのことをあれこれ言っている場合ではないのだが。

「わ、私はいいんです……結婚は、その、諦めているので……」
「なぜだ?」

 容赦ないランドルフの追及が胸に刺さる。
 身内の恥なので、できれば理由は言いたくない。だがランドルフの従順な部下であるリーゼは、中途半端にはぐらかすこともできなかった。

「恥ずかしながら、我が家は財政が苦しくて、その、持参金を用意できないんです。それに親が持ってくる縁談も、かなり歳の離れた方とのものや、明らかに爵位だけが目当てだとわかるものなので……」

 消え入りそうな声でそう発して、リーゼは羞恥に耐えかねて俯いた。
 どうして上司に――しかも想いを寄せる相手にこんな情けないスターリング子爵家の内情を暴露しなければならないんだろう。

(それもこれも全部、お父様とお母様が無駄遣いをするからだわ)
 
 リーゼは心の中で子爵家が傾く原因を作った奔放すぎる両親に恨み節を送った。
 彼らが堅実に生きてくれてさえいたら、リーゼは今頃こうして働くこともなく、同じ年頃の他のご令嬢と同じようにどこかの殿方へ問題なく嫁いでいたはずなのだから。
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