【更新】雇われ妻ですが冷徹騎士団長から無自覚に溺愛されています
 リーゼの実家であるスターリング子爵領は、王都からほど近い場所に位置している。
 今走っているこの林道を抜ければもうすぐだ。このまま馬を飛ばしていけば日暮れまでには確実に辿り着けるだろう。
 
 手綱を握り直し、さらに速度を上げるべく馬の腹を蹴ろうとした時だった。
 ふと、遠くに動かない馬車の姿が見えた。

(こんな場所で停まっているのか?)

 何もない林道だ。こんな場所で停車するなど普通はあり得ない。
 馬車の車輪が壊れたか、馬を操る御者が倒れたか、いずれにせよ何らかの理由で走行不能に陥ったに違いない。

「チッ!」

 一刻も早くリーゼの元へ辿り着き、許しを乞いたいところだが、ランドルフとてこの状況で手を差し伸べぬほど人非人ではない。

 もどかしく苛立つ気持ちをむき出しにしながらも、ランドルフは馬車へ近づいた。だが、目を眇めて見たところで、その馬車の側面に見慣れた紋章が描かれているのが視認できると、ランドルフは大きく目を見開いた。

 フォスター家の家紋である。

 考えるよりも早く、ランドルフは馬の腹を蹴っていた。土を蹴る蹄の音が速度を増す。だが、ランドルフの心臓はそれよりもさらに速く拍動していた。
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