【更新】雇われ妻ですが冷徹騎士団長から無自覚に溺愛されています
 馬車から足が離れた途端、突風で体ごと吹き飛ばされそうになる。それでもリーゼは自分の中の限界まで力を込めて、必死に彼の手を掴んだ。
 
 すぐに引き寄せられ、リーゼは彼の腕の中に収まった。反動で彼の胸当てに頭をぶつけたけれども、痛みよりも彼の逞しい腕に守られる安心感の方が上回っていた。

 ランドルフは横乗りをしているリーゼを片腕でしっかり抱きしめ、分厚い革製のマントを上から被せた。途端にリーゼの視界が真っ暗になる。

『俺がいいというまで決して顔を上げるな。いいな』

 喉が張り付いて声が出せず、リーゼはコクコクと頷いた。

 刃が何かを切り裂く音、馬の嘶き、そして壮絶な断末魔が、雪崩のように次々と耳に飛び込んでくる。
 リーゼは馬から振り落とされないように、目をつぶってランドルフの胸に顔を埋めて、必死にしがみついていた。

『死ねぇッ!!!』

 殺意のこもった男の咆哮がリーゼの鼓膜を震わす。
 刹那、馬が嘶きと共に前脚を高く上げた。体が大きく傾き、リーゼは渾身の力を込めてランドルフにしがみつく。

 布が切り裂かれる音がして、真っ暗だったリーゼの視界に光が溢れる。

『クソッ!悪いが道を逸れるぞ!舌を噛まないように歯を食いしばっておけ!』
『は、はい!』

 切羽詰まった様子のランドルフがそう言うと、また一段、馬の駆ける速度が上がった。
 先程よりも体に伝わる振動は一層激しくなり、リーゼはグッと奥歯を噛み締める。マントが切り裂かれた後もずっとランドルフの胸当てに顔を埋めていたリーゼだったが、視界がうっすら翳ったのを感じて、チラリと目線を下にやった。
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