【更新】雇われ妻ですが冷徹騎士団長から無自覚に溺愛されています
 舗装された馬車道ではなく、地面には草が生い茂っている。もしかして森に入ったのだろうか。
 リーゼたちが今いるこの国境近くには、深いメイウッドの森が広がっている。広大で、一度迷い込んだら二度と出て来られない……なんて逸話もあるのだが。

(敵を撒くには、ちょうどいいのかも……)

 鳴り止まない鼓動が全身を叩く中、リーゼは無事に生き延びられることをひたすらに祈って、ランドルフの腰に回した腕に力を込めた。

 どれくらい走っただろう。一時間かもしれないし、もっとかもしれない。
 ずっと馬上で揺られっぱなしだったせいで、頭がガンガンと割れるように痛み出してきた。息も切れてきて、ランドルフにしがみつく腕の力もだんだん弱まってくる。

 体が言うことを聞かなくてずり落ちそうになったその時、頬を切っていた風が緩やかになったのを感じ取った。
 
『どうやら撒けたようだな。もう、顔を上げていいぞ』

 馬の歩みはいつの間にか随分とゆっくりになっていた。
 返事をする気力もなくなってリーゼはランドルフの胸当てからノロノロと顔を上げる。

 木々の合間から差し込む日差しに目を眇める。聞こえるのは風に葉がそよぐ音だけ。辺りを見回しても、そこには鬱蒼とした木々が広がるだけで、他には何も見えない。
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