【更新】雇われ妻ですが冷徹騎士団長から無自覚に溺愛されています
 一階の応接間の前では、エイダの夫であり執事のマーティンと、侍女と思しき見知らぬ女性が困り顔で顔を見合わせていた。
 応接間の扉はわずかに開いていて、そこから漏れる甲高い女性の声がキンキンと響いている。
 
 聞こえてくるのは、「なんであんな女が!」とか「絶対認めないわ!!」とか……有体に言えば悪口である。恐らくそれはリーゼに対するものだ。
 中の様子が見えずとも伝わってくる剣幕に思わずたじろいでしまう。すると、立ち尽くすリーゼに気がついたマーティンが、ハッと目を見開いた。

「おはようございます、奥様。申し訳ございません、エイダは今朝食の準備をしておりまして、すぐに朝のお支度の手伝いに向かわせますゆえ」
「え……あ、いいえ。それは必要ないのだけれど」

 奥様という響きがくすぐったくて口ごもってしまう。けれども悠長にしている場合ではないので、リーゼはすぐさま真剣な顔を取り繕った。

「それより、お客様がいらっしゃっているの?」

 マーティンの隣に佇む女性にチラリと目線をやりつつリーゼが訊ねると、彼は肩をすくめて嘆息した。

「はい。旦那様の従妹であらせられる、ヘインズ伯爵令嬢アナスタシア様がおいででございます。今は旦那様とお話をされているのですが……」
「ヘインズ伯爵令嬢……」

 リーゼは社交界に出入りこそしていないものの、国内貴族の情報に関してはあらかた頭に入っている。契約上とはいえ夫の親族であればなおさら。
< 40 / 170 >

この作品をシェア

pagetop